揺らぐ幻影


反芻すればする程、赤っ恥具合に冷静に引いてしまうが、

もう終わったことで、結衣には今更どうする術もなかった。

神様がチャンスをくれたとして、今からもう一度時間を巻き戻せたとして、

それでも最適に好きな心を上手に伝える自信はない。


結果的に、先程の告白は失敗に終わったことになるのだろうか。

稚拙なお喋りは、ちっとも近藤の胸に届かなかったのかもしれない。

けれど、結衣は結衣、彼に恋をしていた彼女自身がもたらした。


この想いを綺麗に表出することが不可能な性格だからこそ、

等身大の本物だったと言明できる。

あれで正解だ、あれが始まりなのだからあれは前説、これからが本番だ。


  大丈夫

浮いているような足で切符売場へと向かう。

二人が言う通り、今日は早めに寝るのが一番だと結衣は失笑を浮かべた。


普段利用しない駅だと、コンビニやロッカーの場所が違うため、観光気分で見渡しがちで、

パン屋さんの店頭に雪のように白い米粉パンが並べられており、

単純な結衣はほんのりとした甘さに、急に空腹を覚えた。


どうして食べ物の香りは風に馴染むのだろうか。

心理テストあたりでこの風に色があるなら、きっと彼女はチョコレート色に塗る。

サンドイッチに挟むと絶対に美味しい甘い甘い香りは、きっと――

  ……チョコ?

首を動かさなくても導かれるように、少女はとある場所に向かっていた。

足が勝手に動いて、三角に尖ったつま先が指すのはお花屋さん。


バレンタインという日だからだろう。

近年オシャレ贔屓に人気を博すプリザーブドフラワーと呼ばれるアレンジメントが目一杯並んでいた。

それもピンクや赤といった いかにも恋愛カラーのものばかりだ。


ドライフラワーにも良さはあるが、それとは違った魅力で、

プリザーブドフラワーは高価なだけあって、長持ちして色褪せないのだそう。

生花のような潤いがあり、不老不死の魔女みたいだ。



  これだ

  良いにおい

鉢植えのそれはチョコレートのような香り。

バレンタインにぴったりというキャッチコピーに惹かれ、POPを読んでみることにした。

  ……花言葉