揺らぐ幻影


里緒菜と愛美が座る隣のカウンター席に腰を落とすと、

意気消沈したような表情の結衣は自発的に口火を切った。

「私っなんか、意味不明なこと言った、かも……てか言った!」

あの時、近藤の顔色を察知する余裕がなくて、唇がひとりでに動いていて、

つまり知らない人が勝手に話していたようで、

思い出せる限りで手短に説明した。


チョコを渡し告白も済ませたが、返事は貰わなかったこと、

ホワイトデーに付き合うか付き合わないかのどちらかの言葉を貰うこと、

やたらバレンタインバレンタインと言って、かなり一方的にまくしたてていたこと、


背景が読めない話でも、世界史の年表に負けない小規模な波瀾万丈さがあったはずだ。

そう、恋する乙女のオーバーさを借りるなら、告白は革命だ。


「頑張った、さすが私の申し子」
「てかケーキ美味しかっから余裕、ぽこりんホッペ落ちるって」

励ましてくれる言葉や熱意はなく、突貫なユニーク具合が逆に結衣の心には留まり易い。

台詞みたいに綺麗な激励よりも、その場で思い付いたお粗末なフレーズが受け手次第で名言になる。


コーヒーの上側が気持ち透けている。

コーヒー牛乳しか飲めない人は子供の気がした。

モカとかラテとかオレとかドリップとかエスプレッソとか……カタカナで何が何やら呪文にそっくりだ。


高校一年生の三学期はメンタル的なことでも体力を消耗するのか知らないが、

作戦を決行して毎日に気を張っていたのか、どっと疲労感に襲われ、

もうこのまま寝ていいと言われたら、二秒もない内に爆睡できると断言できる。


「ホワイトデーまで死ぬ気で頑張ろ」
「死んだら蘇らせてあげる」

「今日はもう寝なよ」
「ほんまそれ、早く帰って心臓をいたわりんさい」

今日、女友達の大切さを痛感したとしても、歴史が深い者にしか似合わないと結衣は思う。

なぜ皆は、安易に友情を語りたがるのか。

主張せず、以心伝心、声にしない言葉を大事にしたい。


ありがとうと感謝の意を変顔で表明し、とりあえずメインイベントを終えた。


彼が好きだと知ってくれただけで、今後少しは二人の関係が変わると女子高生らしく予感をし、

ホワイトデーまで頑張ろう。