揺らぐ幻影


宝くじでお金持ちになるか、心が通じて両思いになるか、

どちらがより幸せなのだろうか。


甘い声を丁寧に使い、「ホワイトデー?」と近藤は音を生んだ。

白い歯が覗き、尖った刃になら噛み付かれても良いと、おかしなことを思う。



好きだと言った。

初めて好きな人に好きだと言った。
一方的な想いを初めて声にした。
そして好きだと知ってくれた。

それだけで意味があるではないか。



ホワイトデーの猶予ぐらい大目に見てほしい。


今振られた場合リベンジする予定なので大丈夫だが、

今OKされてしまうと、結衣は悲しくなってしまう。

今、恋人になる権利を得ると、それは彼女が望むものではない。


というのも、まだまだ他人の二人。
今日カノジョにするならば、近藤の中で田上結衣という人間はこうだ。

彼女にしてやってもいい外見の人。
キスしてやってもいいレベルの人。
抱いてやってもいいオンナの人。

今、彼に好きだと言われたら、それは基準が違い、

結衣が求める恋人の定義とは別、二人に誤差が生じることになる。


初恋が希望する恋愛は、この人と付き合いたいという気持ちがあってのことで、

『こいつでもいっか』の好意ならば、ゴミ以下だ。


近藤の気持ちが欲しい。

無意識な発言、実はこのような淡い恋心からきていたようだ。


「ね、社会人て面談で昇給決めたりするんだって。だから、ほら、恋愛対象外から昇格させて下さい」


はっきりと告げた。

ウジウジしたら始まらないし、始まる前に逃げたら意味がない。

近藤が結衣のバレンタインチョコを持っている。十分ではないか。

ありがとうと言ってくれた。十二分ではないか。


なるべく元気いっぱい、にこりと笑った。


「本当ありがと、わざわざきゅ――」

『わざわざ休日に』と、お礼を続けようとしたのだけれど、「や、バイトの帰りだし」と遮られた。

そのホッペを彼が赤く染めてくれる内は、頑張りたいと思う。

彼に感情を与えられる人になりたいと思う。

彼が感情を与えたいと思う人になりたい。


手を振った。
指の隙間で揺れる人は、大好きな人。

そのままの足で向かう先は――