ここでチョコをプレゼントするにはギャラリーが多過ぎるため、
受けとる立場からすれば とんだ公開処刑となるだろう。
待合室の一角にある宝くじ売場奥は人気が少ないと、里緒菜が教えてくれた穴場を目指すことにした。
目的の場所まで五十歩足らず進むにしろ、
隣に普段着の近藤が居ると思えばデートを連想させ、結衣は緊張で足がもつれそうだった。
規定温度に保たれている暖房の生温さと、ドアから滑り込む寒気が合わさり、
ふわふわとした彼の髪をさらう。
ミントの爽やかさ、近藤の香りにふわりと包まれた。
イメージが作り上げるのは清潔な人だ。
ミントの匂いは虫よけになるらしいので、悪い女の子が彼に付きませんようにと祈る結衣は、
性格が悪いのか素直なのか微妙なラインである。
二月十四日、土曜日、晴れ。
バレンタインデー。
「えっと」
人の目を見て話しましょうとは、幼い頃から聞き飽きた台詞なのだが、
実際に直視すると相手を威圧したり、不快にさせたりするらしく、
適度な片思い光線を調節できないのがビギナーだ。
きちんと顔を見たかったけれど、私服効果のかっこよさと、
凛々しい瞳にくじけた結衣は、結局彼の前髪に向かって話すことにした。
「あの、」
……――前説ならたくさん考えた。
恋愛観を語り真面目さを売り込み、アドレスを聞いた訳に気になる含みを仄めかし、
メールが楽しかったこと、話にドキドキしたこと、
それら順を追って逐一心境を挟み説明し、ラスト一気に告白する女子高生のお約束。
そう、告白をしたかった。
「バレンタイン、今日。あげる。チョコ、これ」
しかし、台本通りには演じられなかった。
単語を覚えたての赤ちゃんの暗号だった。
紙袋を差し出し、そこで静止。
モテ子の皆みたいにはなれなかった。
「あ、……ほんと? ありがとー」
ゆっくりと手が触れて、たった今まで少女が握っていた紙袋が、好きな少年の手に。
こんな場面なんて冬休みには考えられなかったことを、今、成し遂げていて、
もう結衣は、この時から自分が何を言っているのか自覚がなかった。



