揺らぐ幻影


大好きな人の私服姿は何度も妄想したけれど、実写版は初めて見て、

想像力を鍛え直さなければならないと改めた。

なぜなら――


  うわ、……なんか

  かっこい

中学の時にモデルのナントカちゃんを目撃した時ばりに凝視してしまう。

頭の中で近藤にダッサイ服を着せていたことを謝りたい程、

想像とは良い意味で違い、予想を超える物凄く洗練された上級者センスだった。


ファッションに詳しい服飾コースらしさが伝わるには十分の街角のオシャレボーイで、

結衣はお婿さんがお嫁さんのウエディングドレス姿にみとれる勢いで味わっていた。


意外にも黒淵の伊達眼鏡が似合うことにまず十点、知的オーラアップだ。

グレーのPコートは、寒さより春先取りを意識したらしく生地が薄手な点や、丸っこいボタンの可愛さに十点、

身体に馴染むロンTはベビーピンクで、淡い色が似合う雰囲気を評価し十点、

年期の入った黒いベルトを骨盤に引っ掛けただけのポイント使いに十点、

無難なチノパンと黒いハイカットスニーカーの絶妙な比重の良さに十点、


そしてトータルでバランス良く、本人の顔立ちにとても合っているので五十点プラスして、

控えめで清潔感溢れる好青年狙いな印象は百点満点の着こなしだ。

ひいき目採点なので、この際ハナマル付きにしよう。


  やばいやばい

  地元着でこんなかっこいいとか、ずる

イケメンイケメンと軽く囃していたことを後悔した。

こんなに優れた人を前に、萎縮してしまうではないか。

結衣のおめかしなんて、彼からすれば背伸びした 中学生レベルだろう。


少し吊り上がった瞳の中に居る間抜けな顔をした少女と目が合い、

今の状況を改めて把握する。

――バレンタイン、休日、呼び出し――


こんな場面でちゃっかり私服データを集める神経が謎だ。

キュンと高鳴る胸、いつまでも眺めていたいが、そういう訳にはいかない。


「えっ、……と、ちょっと、移動しよっか、ゲルマン民、族? あは、つまんない、はは」

バレンタインの主役は女の子だけれど、本日のゲストは彼でホストは結衣、

吃りながらも変なネタを挟みながらも、彼女なりのおもてなしがついに始まった。