揺らぐ幻影


頭の中が覗けたらいい、そんな子供みたいな発想が浮かぶ。

お花畑の世界に詮索は必要なかった。

平和な国は全てがうまい方向へしか流れないと決まっているせいだ。


ここは現実、田上結衣は高校生。

世間と隔離されず生活してきたのだから、大人たちには浅いと子供扱いされる中でも、

それなりに生きて、それなりに経験を積んできだ。

つまり、高校一年生。


天然な人と空気が読めない奴は同一人物ではないかと問われたら、

違うと説明する方が困難だ。


砕いて言うなら、物事を察するとか予測するとか、そういった能力は、

約十六年間の薄っぺらい人生で得た知識で、ある程度持ち合わせることが普通だ。


――バレンタイン、二月十四日、休日、呼び出し。

このワードを前に、『鈍感テヘッ』なんて高校生、なかなかありえない。

そう、平均的な人間関係を築き上げた中で、結衣の言動に恋愛が絡むと憶測ができない方が奇特だ。


高校生、思春期。
自意識過剰とかナルシストは抜きに、平凡な日常生活を送れば身につく予感に従えば、

近藤は付き合った子が居て、とりわけモテて、肝心な対人スキルだってあるのだからこそ、

彼が、今、紙袋を持った同級生の女子生徒を前に、『無自覚テヘッ』だと問題ありだ。大アリだ。


万が一近藤が『純心テヘッ』の愛嬌天使チャンだとしても、

それは片思い組にとったらとんだ悪魔、

他人の気持ちを思いやれない無神経でしかなく、笑顔でマイペースに人様の心を踏みにじる爆弾人間だ。


――だから近藤洋平。

今、何を思っているのか。

この際、自惚れ勘違い男で結構。


『オレってば田上結衣に告白されるかも』、

『オレってばモテんじゃね?』、『オレってば好かれてんじゃんか』など、

すこぶる痛い発想があって普通だ。

なぜなら高校生、男女はそれなりに意識して当たり前なのだし、

そもそも結衣は近藤を好きなのだし、何も問題なく、

彼は過大評価男ではなく、鋭い男となる。


両者は『オレってば好かれている』の同一人物思考だとしても、

前者は痛い人物、後者は優れた人物――この違いが片思いのえこひいきなので、言及してはいけない。