揺らぐ幻影



休日と言うこともあり、バスターミナルの待合室にある座席は既に埋まっていた。

朝一で百貨店で買い物を終えたご老人や、遠方に釣りをしにでも行くのかリュックを背負った少年と父親、

休日の部活を終えた女子校の軍団、たくさんの人たちが密集して会話一つ聞き取れない。


空席ができるも、人混みに紛れると近藤が捜すのに苦労するかもしれないため、

仕方がないので、結衣は自動販売機のすぐ隣に立ってスタンバイをすることにした。


膝の軸が揺らいで安定しないのは、踵が高い靴のせいにして緊張をごまかそう。


本当は入口が開く度に顔を上げ、近藤かどうか確認したいのだが、

もし本人とバッチリ目が合ってしまうと、待ってます感が強すぎて、

ガツガツした気合いが気持ち悪いと思われるかもしれないため、

彼女はぼんやりと右前にある高速バスの時刻表(東京―大阪――神戸―広島―博多)を眺めていた。


  来てくれますように

  ……ドタキャンされませんように

  まさかの友達連れて来ませんように


一生懸命祈る割に、頭の中は正直ちっとも働いていなくて、

ただただ、なぜ神戸と博多だけ市名で、兵庫と福岡と記されていないのか――と、

『名古屋県はあるのか』、『鳥取か取鳥か』、『福岡・福井・福島はややこしい』などと中学生が給食の時間に語るくらい、

どうでもいいことをしばし考えていた。


昭和らしい暖房機具はフィルターが哀愁を漂わせ揺れている。

完全分煙、喫煙室に漂うタバコの煙はドライアイスを思わせ、

ゆらゆらと換気扇に吸い込まれる白いモヤ。


――と、視界が一気に暗くなり――


「〜っわ! ぽ、……あ、おっ、はよう!!」


――近藤洋平が現れた。


現実逃避で怠けていた頭は完全に壊れていて、

開口するのにグロスがひっついて数秒の間が開いたし、

もうお昼を過ぎているのに、おはようと朝の挨拶をしてしまっていた。


バイトじゃないんだからと、自身に冷静に突っ込む自分も居て、

平常心があるのかないのかさっぱりお手上げだ。


とにかく、気付いた時には好きな人がいる。

目の前に大好きな人が立っている。