揺らぐ幻影


大袈裟な学生モードだと、今日は人生の中で一番の真剣勝負だ。

恋愛ごときでくだらないと思われるかもしれないが、

恋を知ってからの経験は、人が生きることにおいて重要なターニングポイントになると結衣は踏んでいる。


時計の針は右へと回る。くるくるくるくる。

服にお化粧に髪に、女の子は一年で最もパーフェクトに着飾らなくてはならない。

高い香水を振りかける時も、付けすぎないように気をつける。

ちなみに、香水の加減がコントロール出来ない人は、恋人が居ないのではないかと言う教室の雑学。

なぜなら、恋人が居ると必然的に距離が近いので、香りなんて仄かで十分、

また付けすぎていると教えて貰える残酷さが由縁だ。


  いよいよ、

  バレンタイン。……、今日

大事な紙袋を一旦靴箱の上に置き、玄関先の全身鏡で最終チェックをする。

可愛いと思われたい、近藤だけに可愛いと思われたい。

自分と目が合っても、それは虚像。偽物。まがい物。

理科で習った。
屈折とか入射角とか、定規を忘れて苦労したテストの光景を思い出す。

どうでもいい日常風景さえも、歳をとると淡く大切になるのは何故。

鏡の中の自分は、一年後の今日、笑えているのだろうか。


軍隊のように頭のてっぺんからつま先まで目視しようとした時――


「なーに、デート?」

確実に寝起きの欠伸まじりの声が聞こえた。

それはぼやけている割に的を得た発言で、無意識に結衣の顔がひきつる。


「違うしっ愛美と里緒菜と遊ぶんだってば」

否定するけれど、肯定するかのように一気に耳まで赤く染まってしまっていた。


  なんで、

  バレるかな……

デートではないけれど男の子と会うことを見破る姉に、哀れな妹はお手上げだ。

身内に恋愛事情を知られるのは面痒いので遠慮したいものだが、

彼女は既にこちらの手の内を知っているのだろう。

「ふう〜ん」と少し厭味ったらしく首を傾げる姉は、あまり似ていない少女の観察を始めた。


誰が見ても分かる。
女友達とのデートなはずがないと。

正真正銘、好きな人に会いに行くのだと。


なぜなら――