たかがリボン数センチでもメートル買いだから、実は五百円かかっていたり、
たかがシール一枚に二十枚入りだから二百八十円もかかっていたり、
投資金額の問題ではないのだから、知らなくていい。
気持ちのさじ加減、無意味なことに好きを込めたい乙女心なだけで、
無駄金だと言われても構わない。
可愛いよね?
センス良いよね?
紺色の取っ手が際立つ薄い水色の紙袋には、昨夜焼いたチョコレートチーズケーキが入っている。
愛美にはホワイトデーみたいだから、やはり王道のピンクか、
せめて可愛らしいプリントがある華やかなタイプにしろ言われたが、
普段流され易い結衣の癖に譲らなかった。
それは、主役がただでさえ手作り品なので、他の部分は可能な限り淡泊にしたかった配慮からの引き算な訳で、
当然メッセージカードも あっさりと仕上げた。
お察しの通り、ペンの種類だって悩んだ。
近藤くん
バレンタインおめでと
チョコレートチーズケーキ
よかったら どうぞ
恋愛らしさは皆無、万人に当て嵌まる文章で短くまとめた。
『重たくなりたくない』は、全国片思い中の女子のスローガンだろう。
いくら好意と言えど、向こうが望まないならば嫌悪されるだけで逆効果になる恐れがあるとなると、
いかにフランクな愛を込めるかがミソで、そこに真剣な愛情はタブー。
分かってくれなくていい、勝手に思い込んでいるだけの偏りなのだから。
ラッピング観賞も飽きる頃、時計は十時を示している。
遠足を待った小学生のように、何日も前からそわそわしっぱなしだ。
けれども、子供と違うのは、嬉しい楽しいだけではないこと。
……怖い。
歳をとって大人になると、物事の考え方が変わる。
まだ未定な未来を情報や経験から推測して、勝手に怯えてしまう――対人、結果、今後への影響……
行き当たりばったりは計画性がないので、悪いとされがちだけれど、
今・瞬間の判断だけで行動できるのは、純粋が故の若者にしかできないことだと思う。
成長すると勇気は劣化し、慎重という名の意気地無しさが進化するみたい。
会いたいから会う子供、会いたいのに躊躇う大人。



