揺らぐ幻影


そんな恋愛ビギナーの結衣は、近藤にバレンタインチョコのアポイントをとろうとしているところで、

人生でこれほどにまでカレンダーを怨んだことはない。


バレンタインは十四日。
今年は土曜日。


従って片思い学生組に残された選択肢は、

《近藤さんに田上さんが質問。十三日って放課後時間あったり?》


学校がある十三日しか残されていなかった。


バレンタインでなくとも休日は、

放課後特有のついでも流れも却下しているため、片思い組にとって呼び出すことは難関度が高い。


そしてまた狙ったかのように十三日は金曜日だ。

ただでさえ小心者だというのに、

世界で最も有名とされる不吉な日しか選択肢がないなんて、嫌な予感しかしない。


《友達と遊ぶ。映画》

返事は至ってシンプルだった。

ふざけて結衣が送れば、彼なら当然同じテンションで文章を打つと予想していたのだが、

淡泊な内容は警戒心なのかと不安になる。


実況生電話で結衣が詳細を愛美に報告するのは当然だ。

「どーしよ金曜予定あるって、十二日? もはやフライングし過ぎ?」

頼りの綱、恋愛先生から、三十秒返事がない。

電波障害かと子機を叩いたけれど問題ないようで、気ばかりが焦る。



『結衣、十四日にしよ?』

愛美の話す意味を理解するには、今度は結衣が三十秒の沈黙を必要とした。

これがラジオだとすれば、彼女たちは立派な放送事故を余裕で巻き起こしていたことになる。

  、じゅうよん

  バレンタインデー

  ……十四日


「は、……土曜とかありえない」

そう、これほどにまでカレンダーが憎かった日はない。


星に願い事をするだけで望みを叶えてくれるなら、是非ともバレンタインデーをずらして頂きたい。

本当に三回唱えて思い通りになるならば、今からベランダに出て何時間でも流れ星を捜したっていい。

風邪を引いたって構わない。

しかし、いくら夢見がちな女の子でも、

そんなミラクルは起こってくれないことを知ってしまっているから、

恋のキューピッドなんて現れないことを分かってしまっているから、

だから女友達は素晴らしい威力を持つらしい。