揺らぐ幻影


悲しみと焦りのラッシュに、結衣はマナーをすっかり忘れていた。

普通、電話をかける際には、今大丈夫かと尋ねるのがルールではないか。


直ぐさま「ごめん、今電話良かった?」と確認をする。

愛美に何度こうしただろうか。
今更だけれど、一方的に繋ぎ止める迷惑長電話は良くない。

いつも感情任せに話し出してしまう自分に叱咤する。


『暇してたから全然。で。なんでそうなるの、私か愛美を好きとか』

さらさらと流す里緒菜は聞き役に徹するらしく、言葉数が少ない。


さっき十分に説明したのにと思いながらも、結衣は再度話した。

近藤のタイプはギャルで、結衣はギャルではないが友人はギャルだと思っていて、

要するに自分は彼の眼中にないのだと伝えた。

メールを反芻するだけでズキズキと胸が痛み、

最後の方はもう悲しくて、馬鹿だから苦しい。


『は、泣いて、んの……? え、待って待って結衣、クレイジーか、落ち着こーよ』

半笑いの里緒菜の声さえ、余裕がないので聞き取れない。

泣くつもりなんてないのに、感情に手を付けられない。

沸騰したお湯の表面みたいに、ポロポロと瞳から透明の粒が溢れる。


走馬灯のように頑張っていた日々の思い出が浮かび、オーバーな結衣は涙を流していた。


ガムをあげた。
メールアドレスを登録した。
シャボン玉を見た。

靴箱の前で……彼から話をしてくれた。

小さな変化は自意識過剰、自惚れ、勘違い。
性格が痛いから胸が痛む。


「……。」

涙が止まらなかった。
こんなことで泣くのはおかしいと分かっているのに、頭の中がふやけて結衣は冷静になれない。


近藤の好みでないのなら、何もかも無駄だったのではないだろうか。

勝手に舞い上がって、勝手に喜んで、勝手に幸せがって、勝手に近藤に近付けたんじゃないかと思ってしまっていた。

全部全部、浮かれた自分の誤断だったのだと切なくなれば、余計に結衣の涙腺をおかしくさせた。


  やだ、他の子なんかやだ

  お願い、やだ

  なんで、いやだ

近藤の心を縛る権利はないのに、別の子にときめいてほしくない。

なんて厄介な女なのかと引くし情けないし気持ち悪いし大嫌いだ。