揺らぐ幻影


見通しが良い昼間よりも、輪郭が分からない夜の方が自分と向き合える気がした。

TV画面の移り変わりが、電気を消している部屋の壁を時折踊る。


結衣が子機で繋いだレスキュー隊は里緒菜だった。

携帯電話に登録してから一回も数字を打ったことがないのに、なぜか指が番号を覚えている。


「どーしよ、ぽこりんて愛美か里緒菜が好きなのかも、里緒菜っぽい!!

里緒菜のが髪なんかギャルっぽいし愛美よりメイク濃いし!! 里緒菜狙いだよ、小崎って名指しだったし!! 里緒菜が好きなんだアイツ」

もしもしを聞く前に、結衣は怒涛の勢いでSOSを口にしていた。

モンスターペアレンツが頭ごなしに先生を怒鳴り付けるような、

クレーマーが聞く耳持たずに店員に対してまくし立てるような、

必死な様が十分に伝わったので、里緒菜はまあまあと宥め、ゆっくりと返事をする。


何がどうなって近藤が友人を好きだと思うのか説明しろと言う声を遮り、

「だってギャル良いよなーって、私ギャルじゃないし、そんで田上さんの友達ギャルだよねって!」と、

結衣は彼からのメール内容を投げ捨てるかのように伝え、

里緒菜か愛美を紹介しろと間接的に仄めかしており、

彼にとって自分はただの繋ぎだった点を主に訴える。


  最悪なシナリオ

  、友達狙いとか

枕を足に挟んできつく潰した。感情のはけ口が見当たらない。

こんな時に女は不安な気持ちをどうにかしてほしくて、行きずりの男と夜を明かすのだろうか。

だとしたら、女の結衣は本当の意味で女ではないのかもしれない。

なぜなら行き場のない想いは毛布を蹴るくらいでしか、発散する方法が思い付かないのだからだ。


まるで気に入らないからと、玩具を投げる赤ちゃんと同じで苛々した。

こんなに好きなのに、何も上手くいかないなんてあんまりじゃないか。

大量なラブハプニングが短期間で訪れ、とんとん拍子に物事が良い方向に進展する主人公が羨ましい。

波瀾万丈に翻弄されるも、結局はハッピーエンドに向かいがむしゃらに生きられる主人公が妬ましい。


通常の身の上話は、結衣のように自己に非がある小さな災いしかないのだから、

なんだかんだで甘い運命は舞い降りない。