揺らぐ幻影


色が奪われた頃、生活道路にはピンヒールの音を響かせる者は、

お風呂やご飯よりもベッドを望んでいるのだろう。

今宵の雲はなぜ黒いのか、空一面に張り付いて星もなく月がぼやけて不気味で、

とても幻想的には思えない。


《メール平気? 中学の友達と遊んだ。凄いギャルで刺激受けた笑》

内容がないと言われたらおしまいだが、他にネタを思い付かなかったので結衣は淡泊に打った。

あれこれ苦悩する前に送る方がスッキリする持論は、片思いをする中で身についたことの一つだ。

悩んでるなんて、誰かに背中を押して欲しいだけで、

大丈夫と声をかけてもらうのを待つだけの甘えた構ってちゃんだ。


  可愛くなりたい

結衣の部屋はいかにも乙女というよりは、全体的にシンプルな印象だが、

綿飴のような甘さがないと言ったら嘘になる。

香水の瓶に指輪を引っ掛けて飾っていたり、

お菓子モチーフのキャンドルといった愛らしい雑貨を並べていたりするので、やはり女の子らしい。

小物くらいは可愛くありたい控えめな少女心。


奮発して買ったフェイスパックは、十分を目安にとのことだけれど、

まだ水分を含んでシートがぺたぺたしているのに、時間通りに剥がして捨てるのは勿体ないと思い、

もう少し延長することにした。


そうこうしている間に、好きな人からのメールが届く。

《楽しんで何よりです。真面目に講座を受けてた俺。ギャルな子良いじゃん》


  ……。

弾む返事を打つつもりだった結衣の手は途端に動かなくなる。

お化粧を落として力強さのない目元は頼りなくて、虚像に縋るばかり。


  待って、ぽこりんて

  ギャル好き、?

嫌な汗がうなじを垂れる。
歯の隙間から、なんでなんでと言葉が溢れ出しそうだ。


田上結衣は典型的なギャルではない。

ほんわかテイスト。
ギャルをインスパイアするも、派手さをダウンさせていると見れば良いだろうか。

街中を意識しており、昔お団子ヘアやライダースジャケットが流行れば適当に取り入れたり、

お化粧や髪型、制服の着方は巷のオシャレさんといった容姿で、

それとなくトレンド格好をしているが、愛美たちの域には達していない。