揺らぐ幻影


バレーのボールのような太陽は、そのまま落ちてきそうだ。

荒く吐き出す息は不思議と苦しくない。

教室から自転車置場まで駆けるのは体力的に酷だったが、精神的には心地良かった。

サウナの限界まで我慢して、水風呂に浸かる時の達成感に似ている。


いつもと違い、市井よりも先に近藤が返事をしてくれた。

たったそれだけで、向かい風に酷使される舌の渇きなど気にならない。

彼にとっては無意味な一つが、結衣にとっては固執したい一つ。

  頑張った

  頑張った私……

左に愛美、右に里緒菜。
守られているから安心できる。

思春期において、両親よりも友人の方が一番自分を理解しているような気がした。

母親は好きな男子に娘は奥手だと思っているだろうし、

父親にいたっては未だに娘は初恋を知らないと踏まえているだろうが、

それは誤解で、高一の娘は遅咲きながらに懸命に行動している。


傾斜のゆるやかな光を浴びて、乙女の茶色い髪が透けた。




コップの中は季節外れの落ち葉みたいな色の麦茶が注がれ、隣にはパーティー開けされたスナック菓子が並ぶ。

冬休み以来、結衣は久々に中学の友人と遊んでいた。

「なんか逆走してる」

「弱〜」

懐かしの家でTVゲームをしてのんびりと過ごす。

中学の時は部活をしていない子で集まり、友人やお目当てくんの練習を眺めるか、

コンビニで買ったお菓子を手に、近所の公園でぺちゃくちゃ無駄話をするか、

通学路で一番学校に近い子の家にひたすら入り浸っていた。



高校入学当初は結構な割合で地元の子と頻繁に遊んでいたけれど、

お互い新しい生活で知り合った人との時間が必然的に増えていた。

そうやって変化を機に疎遠になる人と定期的に会う人、

たまに連絡を取り合う人、

色んな係わり合い方があり、まだ十代だが少し複雑な気持ちになる結衣だった。


十年後、どんな生活をしているのだろう。

愛美や里緒菜と相変わらず仲良くしているのか。さすがに片思いは終了しているだろう。

どうか両思いになっていてほしいのだけれど、破局しているかもしれない。


謎な未来を悔やむなら、確実に今を頑張りたい。