揺らぐ幻影




優しく真上に浮かんだ白球は、たちまち鋭く床を叩く。

シューズの音やドリブルの音で喧しいバスケに比べ、バレーはいくらか静かだ。


体育の風景から結衣は好きな人を頭に浮かべ、

寝癖のようなふんわりとした髪が高く飛んだ瞬間宙を舞う姿にドキドキした、凄くドキドキした。



中学三年間部活に励んでいたんだと思うと、バレーをする近藤がスポーツに励む感じもカッコイイと安易に見ていた目が変わり、

まるでプロスポーツ選手を見ている気分で、

このように片思い中は特別飛躍した色眼鏡になる特徴がある。


苦労したり努力したり褒められたり、見たこともない中学時代の少年を想像すると、

唇の端っこが持ち上がる不思議。


こんなお気楽な思考回路は、

小学生の時に習った理科の授業を思い出せば簡単だ。

並列と直列。太陽電池の勉強だっただろうか。アンペアを用いたのかどうか、いまひとつ思い出せない。

忘れっぽい結衣には詳細は不明だが、自分の脳みそは単純で計算も簡単な方の直列だと思う。

オームの記号がハムスターの口に似ているなと思ったのは、中学の授業だっただろうか。


「結衣っ、結衣ー早く」

なんて乙女な思考は、友人の声でブチっと遮断された。


バスケの試合並に元気いっぱいな三人分の靴音は、

放課後の澄んだ空の下で暴れている風に負けやしない。


「待っ! て!」

「追い越さなきゃだよ」
「走れ走れサライ!」

「負けちゃわないで」
「風になりな」

「待ってってば、二十四時間ー」


放課後の作戦は、『チャイムと同時に駆け足でさよなら』というもので、

プロジェクトを考える頭も直列だ。

上目遣いをしたら好感度が上がるだろう、谷間を見せたらチョロイだろうといった単細胞の簡素な心は、

喜びを収集しすいのも微笑ましい事実だ。


「市井くん近藤くん! またね」

「あ、ばいばい」

「またね田上さん?」


それは一瞬。

新品のノートで指の腹を切るくらいの僅かな時間とは呼べない時間だったのかもしれない。

挨拶には二種類ある。
機械的な流れのものと、本当に気持ちをこめたもの。

彼の呪文はどちらだったのだろうか。