揺らぐ幻影


一昔前の食器洗い機の如くガチャついた教室が学生のリアルってやつで、

愛美は前の席のふわりとした子のネイルを塗り直してあげていて、

里緒菜は制服にタートルネックを合わせる男子軍団と談笑している。


そんな微笑ましいE組で、淡い気持ちが沸きかけたけれど、

やはり何かの間違いだと結衣は思い留まった。

なぜなら、大塚に好かれるようなポイントゼロだと胸を張って言えることを、

一番自分が理解しているつもりだからだ。


前例を挙げるなら、体育の後に遠慮なく脇シューをしていたし、先生に隠れて授業中にお菓子を食べていたし、

消しゴムのカスは少量なら小指でササっと払い床に落としていたし、

そんなだらしなさを知られてしまっている。


つまり、好きとか好きじゃない以前に、女として見られているはずがなく、

彼が赤面中なのは女慣れしていないせいで、彼が冬休みデビューくんのせいで、

ただそれだけだ。


くるくる指に巻き付いている髪の毛。

螺旋階段を駆け上がる先に待つのは誰?

そこに想い人は居るのか謎だ。

どうせなら、手をひいて一緒に一段ずつ進みたいと願うことを許してほしい。


「もー里緒菜のせいで意識したから」

母親が寝坊したため、コンビニで買ったおにぎりを頬張りつつ、

結衣はおどけた口調で文句を投げてみせた。


誰かに好かれること。
昔、先輩に告白されたが、委員会が一緒なだけで普段は関わりがなかった結衣は、

身近な人に好かれるといった感覚が未経験だ。


そんな少女に、「えー、でも大塚タイプだよ、盗らないでね」と、

外にワンカール撥ねた毛先をつまみ、愛美はあっけらかんと口にした。


相も変わらず彼女の指先は洗練されており、ぷっくりとしたジェルネイルが可愛い。

美容代が月いくらなのか聞いた際、時給が結衣より九十円高い差を物語っていた。


アルバイト本格派は扶養内の八万円ライン、時給の良いがっつり派は六万円、土日のみは三万円くらい、

そんな風に働き方で金銭感覚が違う女子高生の事情があり、

アルバイトをしているのにお小遣を貰う人は過保護だとレッテルを貼られる教室での価値観があり、

どうでもいいことが大きなことに等しいらしい。