揺らぐ幻影


時間制限アリは焦るけれど、

ここはフリーなので開始からオーダーストップまでまったりマイペースに食べることができるため、

二人はメールに夢中で、十六個目のケーキをお皿にスタンバイさせたまま放置プレイ続行だ。


「きた! えっと――なんでハテナ、超予習してるからあの子英語ばりばり好きなんだって思った笑い、だって!!

凄いじゃん結衣、ぽこりん結衣んこと――「私のこと! 考えてくれてたんだ!!」

悲鳴のように叫んだ結衣は、場内全ての視線を注がれるのに、

気にせずバタバタと足を動かした。

プールの淵に座ってキックの練習をしているように、

白いテーブルクロスがふわふわと遅れて波打つ。


「私! わざと履歴の画面で! 開いて返したんだけど……、でもっ、意味ないだろうな、って……」

あの時、何かを残したかった。

一歩間違えたら電源も切らないし、閉じてないしの総合で、

ダメな女と思われたかもしれないけれど、あえてインパクトを与えたくて仕掛けた。

「地味な計算拾ってくれてんじゃん! 廃品回収くん」

「あれが私って、私んこと、考えてくれたんだもんね? しかも私、って、今分かってんだもんね?」


知らない人からすれば、大袈裟な誤訳だと引くだろう。

しかし片思い中は全部が貴重で、いちいち特別なのだから仕方ない。

痛い子に目を瞑ってやるのも、また大人力ってやつだ。


《帰国子女ってことで。バイリンガルかな》と送れば、《詐欺なインチキ通訳ガイドさんになれば?》と返事がくる。

以前の結衣ならば短文に凹んだのだろうが、

逆に微々でも親密になれたからこそ成り立つ関係だという仲良くなれた証拠が見えるから、

現代人ぽく携帯電話は手放せない。


何個目か不明のケーキをフォークでつつくと、真っ直ぐに落ちた断面から赤いイチゴが零れた。

食べ物には旬がある。
春の玉葱は甘くて柔らかく、サラダだけで普通に美味しいし、辛みがないから嬉しい。

夏のトマト、秋のれんこん、冬の白菜、

栄養価が高いし値段も安くなるので、旬ものを食べると四季を感じられるし、日本らしいなと感嘆する。

恋愛に旬があるとすると、いつ収穫すれば良いのだろうか。

結衣は腐ってしまいたくない。