揺らぐ幻影


バス待ちの列、商店街の直線、いつも歩く場所を十三階から見下ろすと不思議な感覚だ。

子供の頃は民家の塀やジャングルジム、高いところは探検をしているみたいで楽しかった。


もしかすると、大人たちは童心が忘れられなくて高層ビルを建てたがるのかもしれない。

写真でしか見たことがないけれど、フランスパンしか知識はないけれど、

この眺めよりも結衣はパリの景観が好きだ。


町並みが絵本のような世界を市民が守っているなんて素敵で、メルヘンすぎる。

日本も和風の町並みを推奨している観光地域があるらしく、

全国に広がれば良いのにと、ただの女子高生は壮大なことを思った。


里緒菜が言う。
大丈夫かと気遣うのが小悪魔だと。

親身になって心配するのが優しいモテ子なのだと分かっている。

すなわち、返信内容は『もう大丈夫なの?』がベターである。


しかし、結衣はあえて真逆をいった。

《将来合コンで掴みネタになるよ。過去を演出。笑 頭良くない、私ほぼ最下位》

安い同情は要らないはずだろうと、砕けて打った。


昔からあるテーマ。
少し前の純愛ブームで何かしら病気と闘う主人公が定着した。

あるいは過去に恋人を不慮の事故か不治の病で亡くし――二人で乗り越え――といった類い。

世の中、たくさん人が居るのだから、上記の境遇で必死に生きている人が居るのは分かる。

ただ、なぜ何かしら最近は死の話ばかりなのかと、あらすじを読んだだけで見る気にならない結衣は、

やはり女子高生のトレンド市場に乗れていないのかと、

自分の嗜好が周りと違うのかと、自分の価値観は捻くれているのかと不安になるばかりだった。

皆と違う感性、自分がおかしいのではないか。


例えばパリに超高層ビルを建てて眺めても、結衣はワクワクできない。

日本だとワクワク出来るのに何故。

ただ、挫折した過去がある人に、顔を見て言葉をかける人でありたい。


程よく溶けたチョコレートが白い皿を占める。

水滴のついたグラスは一定の大きさになるとコースターに向かって落ちていく。

それは部活に励む近藤の汗に思えたし、また部活を断念した近藤の涙に思えた。

そっと指で拭うと、手を繋いだ時のように温かった。