揺らぐ幻影


「テニ部だったけどヤダよ、今とか筋肉お肉になって切ない。宿命」

しょげている帰宅部出身女を励ますよう、里緒菜は豪快に笑った。

「えー、でも中学ん「出たっマイナス女め! ただでさえ寒いんだからネガティブ思考禁止ー」

まだ悲観しようとする結衣は、雪女かと突っ込まれ、なんだか自然と笑顔になった。

マイナス思考で氷になる心を溶かしてくれるのは、雑な友人の言葉だ。


  後悔したって。したい部活なかったし

  部活してないから今の怠け者の私が居るんだし、とか、哲学みたいな

そう、何か過去が違っていたなら、結衣は近藤を好きになっていないかもしれない訳だ。

いまいち頑張っていない手抜きな中学時代が土台となり、こんな性格の彼女が居て、

高校生活は彼に恋をしているのだから、

今があること、すなわち過去は必然だ。
聞き飽きた常套句ではないか。


単純なプラス思考は幸せへの近道だ。

足踏みして立ち止まるより、スキップして早送りする方が楽しい。


塾と家庭教師をしていたと返事をしたら、近藤からは少し長い文章がきた。

《飽きて退部したんだけど足痛めて辞めたって言えば武勇伝ぽい?笑 帰宅部とか夕方再放送見れて得だな。田上さん頭良いんだ。テスト余裕?》


優しさの含みを感じるのは自意識過剰だろうか。

さすがに都合が良すぎるかもしれない。

それでも願いたい。
部活をしていなかった結衣を励ましてくれたと。

ああ、なんて馬鹿な思考力なのか。情けないくらい幸せで、嬉しさと悲しみは隣りだと知る。


「……足、痛める?」

「さあー、でも反射神経要るから? バレー……わかんない」


今も当然ながら、昔の近藤のことも深くは知らないけれど、市井が言うように彼はバレーが好きだと思う。

アタッカー。
体育が苦手な結衣は詳しく知らないが、辛かったのではないだろうか。

大好きなバレーだったに違いない。

彼女だって大好きなTV番組が打ち切りになった時は切なかった。

悔しかったのだろうか。

分かりたいと渇望する気持ちは何?

とんだ救世主、自分が良い格好をしたいだけのように思えてならない。

傲慢な自己顕示欲に酔いしれたいだけなのか謎だ。