揺らぐ幻影


左心房とか大静脈とか酸素を多く含むとか、中学のテストで理科は暗記をするしか術がなかった。

始まりのチャイムが鳴ると問題文を読むより先に、覚えた単語をとりあえず用紙の右上に書き上げ、

そのストックをヒントに結衣的に難題を解いていた。


耳の中まで熱いおかしな身体の理由は教科書に載っていない。

恋の脈動は近藤を思う限り続いていくのだろう。


彼とメールをする時間は、特別胸がおかしくなる。

「読むよ。いや見るな、マル、シャイボーイは照れる、笑い。屋内部が良くてバレー、テン、日焼けたら赤くなって痛いか弱い僕、笑い、だって!」

受信メールを音読し、彼は男子の中だと白いけれど市井の方が白いと感想を述べて、また結衣は文章を読む。


「部活してなかったんなら何してた訳、ハテナ、だって。……私部活しとけば良かった」

「なんで?」

「、だってー」

斜め下に首を傾け沈んだ表情を作り、結衣は約三年前を思い出していた。


中学時代の田上結衣は――

部活はせずに放課後カッコイイ野球部の先輩を見て騒いだり、

テニス部の友人に遠くから野次を飛ばしてはしゃいでみたり、

家でゴロゴロしたり、話目的で塾やピアノ教室に通ったり、

つまり、情熱を注いだ記憶がなかった。


遊ぶばかりで、一生懸命頑張ったことなんてない。
受験だって苦労はしなかった。

一方同じ頃の近藤は、バレー部で青春を送って懸命に励んできたのだろう。


  私ってダメだな、ゆとり?

もう少し中学生らしく過ごせば良かった。
部活なんて重要視したことがなかった。

スポーツは苦手だから単純に運動部は選択肢になかったし、

絵を描いたり楽器を奏でたりの文化部も、結衣には向上心がないのでやっぱり選択肢にはなかった。

だからといって、放課後を有意義に使えていたのかと言われたら上手く答えられない。


なんだか努力をしてこなかった彼女は、人として知らないことが多い気がした。

もしかすると市井も近藤も部活をしていた結果、自分よりもどこか大人びているのだろうか。

部活万能説を提唱したくなる。

なぜなら、胸を張って頑張ったと言えることがないのは、同い年として情けない気がしたからだ。