揺らぐ幻影


といった理由を説明すれば、片思いは特別だからと後押しされ、

結果的に結衣は近藤にメールをすることにした。

早い話、彼女自身も好きな人に連絡をとりたかった節があったのだけれど。


何気に、昼間に送るのは初めてかもしれない。

それだけでドキドキするなんて、おめでたいと自身に引く。


《今日寒くない? 凍る。近藤くんバレー部だったんだ》

手慣れた様子で携帯電話を操る結衣の姿に、里緒菜は薄く笑った。

少し前までは、たかがメールで喚き散らして煩かったのだが、

どうやら手取り足取り教わりたがる他力本願な友人は居なくなったようだ。


「返事、遊んでるかな」
「大丈夫だって。どうせ暇人だよ」

「んー?」
「大丈夫。奴も暇人だって。淋しい休日」

いつも一人で溜め込む気持ちを言葉にして、聞いてくれる人が居る。

友人の存在は特に片思いでは欠かせないと有り難く思ったし、恵まれていると思った。


メールは歯医者さんに行く心情に似ている。

ちゃんと歯磨きやデンタルクロス、口内洗浄剤も使用しているのに、

三ヶ月に一回チェックをしてもらう際に、虫歯があったらどうしようと悪いことをしたような気持ちになる。


メールもそう、何も問題ないのにメールなんか送って申し訳ございませんという気持ちになる。


  バイト中かな

一応ホテルなので、バイブなしのマナーモードにしていた携帯電話が光った。


《寒すぎ。五時からバイト可哀相。バレー。なんで知ってんの。スパイか。田上さん何部だった?》

「バイト頑張って。市井くんから聞いた。貴様バレー上手ですね。部活してない、普通に帰宅部、……で、雪だるまの絵文字。で、送信」

音読して里緒菜にアイコンタクトを送り文章を打つ。

たかがメールに情熱を注ぐ姿を重いと思うか健気と思うか、

以前の結衣ならいちいち気にしていたが、最近は深く考えないようにした。

純粋にメールを楽しめるなら、それでいいじゃないか。


今だけなのだから、瞬間を大事にして頑張りたい。

片思いの隙間産業で良い。
今の結衣はとりあえず自らがむしゃらに行動しなくては、爪痕さえ残せないのだ。

数打てば当たると信じる内は、陽気な勘違いで頑張れる。