揺らぐ幻影


歯医者さんの削る音を聞いた時みたいに寒い風と、歯磨き粉みたいな雲、

診察台の上にある眩しいライトのような太陽、

甘いものを食べたら虫歯に気をつけなくてはと結衣は思った。


大塚に惚れられていると、里緒菜に再度報告された。

「大塚とか女々しいから嫌ー、ぽこりんみたいな人が良いし」

「斬るね?」と笑う里緒菜に、「だってー……」と抗議しようとした時、

お店の人がケーキを運んで来た。


話を中断しお菓子に夢中になるのは、腐っても彼女たちが乙女だからだ。

「あー、ムースのと抹茶の……キャラメルも、迷う」

そう、仮にも高級感が売りのホテルなので、バイキングと言えど、

新作を逐一席まで紹介してくれ取り分けてくれるのだ。

そのため席を立つ必要はなく、お皿が空になる前に新しい宝石を持ってきてくれる。

ちょっとしたお嬢様気分を味わえるのが リピーターが多い秘訣だろう。


「美味しいー」
「あっまい甘い」

赤ちゃんがガラガラを振ると笑う如くキャッキャと喜ぶ線の細い二人のどこに大量のケーキが入るのかは不明だ。

ピアノのみが奏でる曲が会話の邪魔にならぬよう、天井付近を歩いている。


「てかさあ、ぽこりんにメールしよーよ」

脈絡ない里緒菜の提案に、結衣は露骨に顔をしかめた。


というのも、姉による偏った教育の結果か、

誰かと一緒なら急用以外で携帯電話を弄る人にはなりたくなかったからだ。


たまに束縛彼氏と実況メールをしあう女子がクラスに数人居るのだけれど、

遊んでいても携帯電話に夢中なので、たちまち居心地の悪さを覚える。

じゃあもう二人でデートしなよと不快に思うし、どんだけ暇人なんだよと呆れそうになるが、

人それぞれ恋愛の仕方があるだろうから、結衣は理解を示すようにしている。

一方で、携帯電話がないと何も出来ない人が増える世の中の見えない病に不安と恐怖を感じるも、

結局自分も利用しているという凡人具合が結衣らしさだ。


そのような様々な背景があり、里緒菜とこうしてケーキショップで楽しくしているのに、

近藤とメールをするのはあまりに現代っ子すぎて如何なものかと思う訳だ。