揺らぐ幻影


確実に市井は結衣への恋愛感情がゼロだ。

なぜなら、狙われている感もないし、思わせぶりな態度もとられていやしないし、

何より彼は、結衣が近藤に想われたいように、恋人を大事にしているためだ。


恋愛モノならば、恐らく展開の山場として好きな人の親友が主人公を好きになるはずだ。

そしてこの場合、結衣の心が揺らぐのを見て、近藤は市井に激しく嫉妬し、

なんとまあ安易に本当の気持ちとやらに気付くのだ。


けれども ここは現実、日常社会。
好きな人の周りを巻き込んだひょんなスイーツを差し入れされることはない。

ここが洋菓子の聖地だとしても、甘い話はない。


もちろん里緒菜も信じていないようで、

あの市井に惚れられる訳がないと、笑い飛ばした。


そしてジョークを強要した覚えはないのに、彼女は言った。


「大塚は結衣好きだよね」


しかも、付けまつ毛を下にも装着している黒い瞳には真剣さのみ、冗談を噛ました訳ではないらしい。


「は、」

  なんで大塚

比較的クラスの中では話す人物の割に席替えをしたら疎遠になる程度で、

そこに色恋などない。

つくづく噂話なんて信憑性がないと実感するには十分だ。

なぜ学生は会話イコール恋仲と見做すのだろうか。


「身内でそのノリ女子高生?」

再びありえないとツッコミがてら否定し、ダイエット心を働かせた少女は、

ストレートの紅茶をちょうど八センチ勢いよく飲んだ。


同級生たちのように馴れ合いで褒める流れは苦手なので、

『可愛いよね、憧れる』『本当に優しいよね』的なやりとりはゾっとする。


お世辞、社交辞令は欝陶しい。

美人な芸能人が美容法を聞かれ、何もしてませんと謙遜するくらい信用ならないし、

四十点の子に美女が『肌ほんと綺麗だね〜』と褒めるくらい胡散臭い。


上っ面な友情もどきは深い話をしているようで、実際は全然親密でなく、

ヨイショでなあなあなの自己愛パレードで、自称リアリストな結衣には無理だ。


そんな中身のない親友ムードに凝るなら、

同じくカラッポにしろ面白い自虐ネタで爆笑しあう方が距離が縮まると思う。

だから愛美と里緒菜と居る時間は愛おしいのだろう。