揺らぐ幻影

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足をさらうような風が関節の奥まで溶け込むせいで、

臓器から冷える寒さに、街行く人のファー使いは今週に入ってどっと増えたように思える。


今日は有言実行のため、里緒菜とカラオケデートの予定だったのだが、

土曜日昼過ぎのせいか、

予約しても待ちに三時間以上もかかり、

既にお客さんで椅子は埋まっているし、立つにしろロビーは混雑していてフロント奥にあるPVを見ながら時間を潰す場所もない。


だからといって、寒空の下辛抱してまで歌いたい訳でもないし、

また駅ビルに戻るにしろヒール靴なので往復するのが面倒だ。


優柔不断と無縁の二人は、割と有名なホテルのケーキバイキングでぬくぬくお茶会をすることにした。

甘いものにガールズトークはつきもの、正に女子高生の休日そのものである。


ちなみに、都合良くダイエットが臨時休みなのは当然のことだ。


「あっまい」
「美味しー、愛美も誘えば良かったー」

「やけ食い?」
「あはは、ドカ食いー?」

格式張った高級ホテルに名があがると近寄りがたいけれど、

ここのケーキショップは、地元情報誌にたびたびスイーツ特集やビュッフェ特集で紹介されており、

結衣のような中流家庭の一般人でも気軽に利用しやすい。


その証拠に周りのお客さんには女子高生団体が数組見られる。


バレンタインシーズンの一、二月はチョコレートケーキを推しているらしく、

真っ白なお皿に乗るのはどれも正反対な甘い甘いチョコレート色をしている。


ホテルに来る途中、可愛いとか綺麗とか声が上がり、人が群がって騒いでいる現場に出くわした。

芸能人がロケでもしているのかと思い、里緒菜とやじ馬をしてみると、

中心には服コの三千子が居り、どうやら連載のフォト撮影中らしかった。


マドカの服コは、やはり市内では有力者なのだと少し誇らしかった。

アトリエ室を使えるのは学年でたった三人。
三千子と静香と、そして市井。


放課後のデザイン演習に近藤はよく参加しているらしいのだが、彼の実力はいかほどなのかを知らない。

いつか服について話を打ち明けてもらえたなら、結衣は幸せになれるだろうと妄想してみた。