揺らぐ幻影


そう、一般的な恋愛話だと学年のイケメンがなぜか自分に惚れてラブラブになるらしい。

または、恋に悩む平凡な自分の相談相手にイケメンがなってくれて、

なぜか惚れられて告白なんかされちゃうらしい。

『他の女とは違うから』ナントカカントカ語られちゃうらしい。


しかし無念、ここはリアリティしかない世界。

夢がない結衣は深い語りにときめけないし、

そもそもイケメン代表の市井は大して努力をしない自分を好きにならないし、

かといって親友の誼で〜と非常に事細かな恋愛アドバイスなんてしてくれない。

ヒントさえくれない部分は結衣的に少し腑に落ちない。


そして彼女は鈍感ではないにしろ、主人公のように超人並の着眼点は持ち合わせていないため、

都合よく市井の陰には気付いてやれない故に、伏線も含みも察知できやしない。

従って、単純に顔を見れば話す友人のような関係なだけだ。


  、なんか

しょげていた結衣に気付いている癖に、甘い言葉だってくれないし励ましてもくれない。

ただのクラスメートの男子と同じ会話のノリが笑えた。


ボールを受ける音が可愛らしく耳を飾る。

厭味ったらしく、それでいて赤ちゃんに似た目の彼は続けた。

「E組んアタッカー、ガツガツしすぎ。ゆとりなさすぎ。俺らゆとり世代なんだよ、はは。

ただの体育、田上さんみたいな下手で鈍臭い使えない奴を活かしてナンボだよね?」


子供らしい表情とは違い、物事を大人みたいな見方をする人だと感じた。

その癖、遠慮なく斬ってくれているけれど。


  ……。

市井雅に惚れなくて良かったと失礼ながらに結衣は悟った。

もし好きになっていたら全部お見通しで、なんだか疲れそうだ。

嘘なんかバレバレだろうし、サプライズも見破られそうだし、何より感情が謎だ。


隙間風がやんわりと入り込んで、コロンの香りを撒き散らす。

日曜日の朝に、牛乳と缶詰のパイナップルをミキサーに入れて、

フルーツジュースを作った時のような甘い美味しい空気。


「私を使えるのは新のばぼちゃんだから、あはは」

好きな人の友人と談笑できる間柄になれて良かった。

普通が一番難しいが、普通な関係で嬉しく思う。