揺らぐ幻影


体育館の上には人工的な明かり、童心があれば夜には即席星空を演出できるかもしれない。

玄関口には太陽光が柔らかく差し込み、より少年の真っ直ぐさを強調させているかのように感じられさえした。


「招かざる客ー」

ビジューが反射した煌めきに似た唇からは、意外としっかりとした音が出た。

泣き声だったらと不安になったが、そんな心配は要らなかったようだ。


更にいえば、涙は乾いていたから大丈夫だ。

落ち着けと五回繰り返せば、だてに十五年間生きてきただけあって、すんなりと視界は晴れた。


だから結衣は笑顔を作れた。

「私の運動神経って逆に超越してるでしょー?」


弱気な時にさえ、望んでいる人が現れてくれない。


美人は三日で飽きる、だっただろうか。

学年で一番注目を集める市井を前にしても、近藤の方が素敵だと思える不思議。


手の平から奪われたボールは高く、かつ受け取り易いように配慮した柔らかさを残して浮かんだ。

奥がキャッチするのを見届ける中、ふと思った。

虹の両端があるなら、ボールのやりとりが残す最初と最後なのかもしれないと。

すなわち、会話のキャッチボールが儚い訳がよく分かった。きっと幻惑なのだ。


何の用だろうと思惟する隙を与えたくないのか、単に無意識なのか、

E組の女子生徒たちに向かって「田上さんレンタルする」と叫んだ市井にびっくりしたし、

また不可解で結衣は首を傾ける。

  なんでもう!

  私がとばっちり受けるのに

  市井って分かってない……、いや分かってるから?

彼なら自分の言動が学校の中で生活する者にとって影響大のことを熟知しているはずだ。

ひくついた笑みを悟られぬよう、結衣は接客業で身に付けた技をここぞとばかりに披露した。


けれども、とびきりの笑顔を返されてしまい、構えていなかったせいで目眩を起こした彼女は、

隣にしゃがむ彼をあしらうタイミングを逃してしまった。


  ……なんで私

  巻き添え的な?

もやもやした気持ちと同じ割合で、口から零れる息が白く浮かぶ。

日なたなのに少し寒い。

かけ声や拍手、活気あるE組の試合の様子は見なくとも耳で分かった。