揺らぐ幻影


強風で体育館が吹き飛べばいい。
火災訓練でも始まればいい。

近藤が居るから大好きな体育だったけれど、格好悪いのが恥ずかしいし、凄くつまらない。

いや、チームメートに迷惑をかける自分が情けなく、悲しくなる。


気配を消した結衣は白いボールを追いかけた。

コロコロ。勢いがあったため、出入口にまで行ってしまったようだ。

  あーあ

  皆怒ってない。けど苛々してるよね

  やだな、サボりたい

恋愛以外でマイナス思考になることは久しぶりかもしれない。

滅多にないネガティブシンキング、どう対処するものだったか忘れてしまったらしい。


「バレーって、結衣プリマドンナだもんね」

「ほんまそれ、胡桃素手で割るし、満月の夜は白鳥じゃなくてダチョウになるし、眠れる森の老婆だし」


背中に貰ったのは、他の誰でもないあの二人の遠回しな言葉だった。

チームの皆が結衣に呆れているように、結衣も自分に運動神経が備わっていたら、

ミスばかりで下手くそで謝るしかしない子をもどかしく思う。


それを大丈夫とか気にするなと言わず、笑ってネタにしてくれる友人。

優しいのは狡い。

感動とかしちゃわない予定なのに、喉の辺りが詰まって苦しくなる。

不意に気管がおかしくて噎せるし、なぜか目頭が熱くなって涙が溢れるのはオカシイ。

そんなキャラではない。

  待って、待って私、なんで泣く?

  どんだけよ、か弱いっつー……キャラじゃないし

  なんで

大丈夫とかドンマイなら泣かなかった。

愛美と里緒菜がギャグにしたからだ。それって罪で、それって優しい。


白いボールに落ちたのは、アイラインが溶けた灰色の涙だった。

乙女チックに透明の雫ではないところが、いかにも現役女子高生らしいではないか。

感傷に耽る設定も、ボールに滲んだ墨汁を連想させる粒を見れば自然と笑えた。

それさえ二人の計算だと思えるのは何故。
無駄に愛さないでほしい。


こうなると早くボールを拾い笑顔で振り向いてコートに戻らなければならない。

立ち上がろうと膝に力を込めた時――


「体育なのに立派だね」


ふわふわした話し方をする人が、なぜか目の前に居た。