揺らぐ幻影


田上結衣と言えばバレーボールが下手な事で有名だ。


中学生の時になるが、トスをするつもりで腕を振ったら、ボールがポールにぶつかり、

それが自分の顔面に激突した伝説が学年をこえて広がったせいで、

明らかに敵チームは弱い人物を狙っており、

アタックの矛先は、スパルタ特訓並に集中的に結衣の周辺ばかりだった。


  もー

  そこまで勝ちたいかー?

九回目のアタックはさすがにしつこく、ついホッペを膨らませてしまう。

「結衣弱ー、結衣しょぼー」
「せめて当てよ」
「狙われてんねー」

これが古典的な学生話なら、ベタに主人公は授業が終わるなり責め立てられるのだが、

E組はまあまあ社会適合性があるので、過剰にクレームは付けない。

どんまいと言いながら張り合いのない試合に、チームメートは飽きてくるくらいだ。


それもこれもネット越しにモザイクがかかった女、

結衣ばかりを狙う現役バレー部のアタッカーに、不満が募る。


「ごめん下手で!」

徹底的に攻められると対処が出来ず、また苦手な分野だと上手い冗談も浮かばず、

正統な謝罪をするしかない。

「いいよ慣れたから」
「下手なの知ってるー」
「結衣悪くないよー悪いのは結衣の運動神経だよ」

E組の女子は微妙に文句を含めた言葉の使い魔でもあった。

これこそが女子高生スキルだ。
苛立ちもきちんと伝えるお子ちゃま。

普段なら平気だし、むしろ『助けてよ』とか『場所代わってよ』と図々しく絡めるのに、なんだか今日はだめだった。

しょげた少女はがっくり肩を落とし、転がったボールを拾いに行く。


彼女のような運動音痴は体育の団体競技が苦手だ。

個人種目なら自己責任で誰にも迷惑をかけないが、

チームプレーとなれば精一杯頑張っても、運動神経がいい人からすれば鈍臭いと思われてしまう。

負担にならないよう平均のプレーが出来るならとっくにしている。


ダイレクトに言うなら、結衣は自分が足手まといな選手だと分かっていた。

  やだなやだな、サボれば良かった

  あーあ、やだなやだなやだなー

  気まずいよ、私

他のコートはリズミカルにボールが空気中で踊っているから余計凹む。