揺らぐ幻影


奥はバレンタインに告白をするつもりなのだそう。

既に二回一緒に出かけたらしく、話を聞く限りで脈ありだと結衣は思った。


見込みがあると言えば、彼女は針で突くと弾ける熟れすぎた最後の夏が詰まったトマトみたいな赤い顔をするなんて、なんだかおかしい。

そして無理だと嘆くあたり、本当に自分みたいで笑えた。


結衣としても、自身のマイナス思考ジメジメうじうじ発想が情けなくて、

また、いちいち大袈裟に悲観する自分自身に引いていて、

だから奥を見て安心した。

片思い特有の恋愛中毒症は、恋する乙女が皆揃って感染する病だ。

オーバーに悩み過剰に悲観、それらは片思いの症例の一種で、

特効薬は恐らく大切な人に好きだと言われること。

治したければ自力で這って頑張るしかない。


なぜなら、

「普通に両思いだってー頑張って!」

通常かかりつけ医師の女友達は、このようにざっくばらんな励まししかしてくれない。

親友気取りの割に『応援する』や『自信持って』と、やっつけ治療ばかりだ。


痛み止めのようなその場限りの言葉で原因解決は無理だから、

結衣は処方箋を破ってやるインチキ恋愛薬剤師さんを目指す。

女の子らしい感じは上っ面だけなら、

「私が予言するんだから振られる訳ないじゃん」と、

でたらめカルテを作成してやるまでだ。


愛美や里緒菜のお薬は、ちゃんと治癒力があるので、彼女らを真似て結衣は聴診器を外す。

医者や看護師や薬剤師やごちゃまぜになっている点はスルーしよう。


「頑張る、告白する!」

キラキラした奥は可愛い。結婚式の引き出物で選んだダイヤのピアスみたいに眩しい。


突然の雨は傘がなくてずぶ濡れ、友人が雨宿りをさせてくれて、

タオルやお風呂、あったかいココアなんかをいれてくれて、

乾いた服を着て外に出れば、街中に溜まった負の汚れを洗い流した青空。


恋は気まぐれ。よく聞くではないか。
秀才な天気予報士だって外したりするのだから、そんなもん恋愛素人の結衣には西高東低の気圧配置なんて関係ない。

  ……私、も

  告白、いつか、

明日の予想は今日の妄想、恋の天気図に前例は当て嵌まらない。


…‥