揺らぐ幻影


「喋ろ、起きよ」

「やーユイちゃん寝るもん、おやすみだもん」

不調和さを全開にしながらも語尾に茶目っ気を込めることでごまかし、

寝返りを打つと結衣は奥に背を向けた。


お昼寝がしたくてたまらない。

夢の世界へ羽ばたこうとしたが、「バレンタインどうしよー」という乙女発言が聞こえ、

自ら翼を剥ぎ取り、「語りなさい」と一言、

アンチエイジングばりに大頬骨筋を引き上げ、結衣は満面の笑みを向けた。


顔もスタイルも良い美人で、かつ特別オシャレなら、

恋愛にもさぞかし自信たっぷり余裕があるものだと思っていたが、

それは誤ったイメージだったようだ。

少し罪悪感が芽生えた結衣は常々思っている、先入観ほど愚かなものはない――なんて小難しい哲学を。


例えば派手路線なファッションの子を、なぜか決まってチャラい女と解釈するくらい、

巻き髪でワンピースが似合う甘めな子を、なぜかこぞってぶりっ子と設定するくらい、

中身のない思い込みは謎。


見た目と人間性が違うことを、コミュニケーションが浅い人には典型的な印象を持たれてしまう。

ちゃんと接すればファッションから成る見た目とキャラクターは全然違うのが現実の世界。


ならば、近藤は結衣にどんな人物像を持っているのか。

まだきちんとコミュニケーションなんてとれていやしない。

だから願うしかない。
お姉さんぽい以外に、どうかおかしな固定概念を抱いていませんようにと。


本当の自分を誤解される悩みは、他者と密に接しられていない自分の怠惰だ。

もし彼に誤った性格を認識されているなら、頑張ってイメージを払拭してやろう。

ほら、サボり魔な結衣にも頑張り屋さんな一面だってある。


モジモジ指先でシーツを丸める奥の様子に、同性だがキュンとなってしまった。

  奥サマでもネガティブなんだ

なんだか自分を見ているような気がして、たちまち美人な彼女に親近感を覚え、

結衣にしては珍しくアドバイス役を買って出た。

白色に包まれ目眩がしそうな部屋は、消毒液のきつい香りが鼻を刺激するし、逆にリラックスができない。

保健室の先生は気配を消すのが上手く、二人だけだと錯覚したのは体調不良な女子生徒だ。