揺らぐ幻影


こういう時の決断は早いタイプだ。


カーテンで仕切られて隔離された錯覚になる空間の空調は良い。

風邪っぽいと偽り保健室のベッドで健やかな眠りに就こうと閉じられた瞼は、

白色で統一されたベッドルームだと、黒さが一層強調されているようだ。


静かな時間は壁の境目が薄れ、図書館に似ている気がしないでもない。

自分の気配さえなくて無になれる場所だ。


  ……あ、寝れそ

見たい深夜番組が始まるのは二十分後、眠たいのを堪えオープニングまで起きていたのに、

最初のトークを耳にした途端、安心するのか知らない間に眠ってしまう不思議。

どうせ爆睡してしまうなら二十分待った意味はなく、朝起きるなり非常に悔しい思いをする日常エピソード。


今、正に眠りに落ちるという瞬間――


「サボり魔ユイちゃーん」

ホットケーキシロップのようにベタベタして、水で手を洗ってもしつこく絡む声色、

ねったりとした話し方をする知り合いはただ一人。


癖のある口調は似合っていないとただの勘違いな痛い存在になり兼ねないが、

彼女の場合に限り、許される上に容姿にしっくりすると朧げに結衣は思う。


「んー、眠いよ私」

縦半分の視界に侵入してきたのは、同じクラスの奥だった。

今日もリーゼントのように前髪が決まっていて可愛い。

ポンパドールはボリュームとバランスが鍵で、

失敗するとたちまち野暮ったく見えるため難易度が高いとされるが、

上手にアレンジできる彼女は、やはりオシャレなクラスメートと呼べる存在だ。


女子高生において、ファッションセンスが教室での支持率に癒着している。

可愛いとか綺麗とかは実際あんまり関係なく、キャラと雰囲気が重要で、

女ウケにはオシャレな憧れ、つまり向上心が突出した者の人気が高い。


ちなみに、学生界では個性重視なので、真似をすることはご法度だが、

各クラスに二、三人は双子のようにメイクや小物、何から何まで節操なくコピーをする子が居るのは何故。

その手のマネッコに限り『パクられた』と、やたら主張すると認識されている。


そんな高校生活、奥は結衣のお姉さん的存在であるが、眠りの邪魔をされたくないので粗末に扱った。