揺らぐ幻影


活発に赤い色が動いて、つい目線が声の元に行く。

乾燥のせいか下唇に一本切れた筋があるけれど、

女の子をしている結衣より近藤の方がしっとりとしていそうだ。

どうして男の子は血色が良いのだろう。


愛美と里緒菜は床にしゃがみ、手のかかる友人が気まずくならないよう、

出演料はないけれど、ちりとりとほうきを武器に掃除係A・Bを演じてくれている。


  、綺麗

男性に用いる表現には失礼かもしれないが、凄く美しくて困る。


妄想をする時は、お花畑の世界の登場人物になる結衣だが、

今の世界観には、少なくともサンサンとした太陽は似合わず、

どちらかと言えばさなさなした月がしっくりくるし、しとやかな湖といったところがベスト。

砂糖の白がコーヒーの黒に染まってしまったせいだろうか。


犬が自分のしっぽを追いかけるように、赤ちゃんが掃除機を追いかけるように、

単純に触ってみたいと、結衣は近藤の唇ばかり見ていた。


下校時間は方角と交通手段でグループが編成され、

ユニークな組やちゃらけた組、真面目な組や清楚な組、

それぞれが向かう通過点、下駄箱で立ち話をする二人を避けるように、

生徒らが迷惑そうに二度見三度見しながら流れていく。

人目なんて気にならなくて、ただ一人の瞳に受け入れられることが薄っぺらな人生の喜びだった。


少女ビジョンでは二人だけの世界に、

「よーへー電車は?」という第三者の加わった。


靴箱の先の玄関口に居る市井が、現実の世界へと結衣を導いてしまう。

「あ、電車やば、じゃあまた」

「うんっ、電車乗れ――バイト!、頑張っ……、て……」

尻つぼみに音量がなくなるのはバイバイが淋しいからで、もう少し話をしていたかったからだ。


  私ってキスできるレベルの子?

  それとも生理的に無理め?

愛美にも里緒菜にも言えないけれど、結衣は一人現実的なことを思うも、。

そんな発想に引いて教室に戻るまでの間、存分に自己嫌悪した。


『じゃあ』の次は『また』

確実に聞き取れた変化を、鋭くない結衣は察知できなかったが、

調子に乗らないには、ちょうど良かったのかもしれない。


…‥