揺らぐ幻影


中一の自分にホラー小説よりゾっとしてしまう高一の結衣にとって、

昔のカッコイイ男子の条件は、今となればある種の迷宮モノでしかない。


これからの回想に鳥肌なのは元・天使さんで、ハテナなのは無垢な天使ちゃんだ。


あの頃――……
タバコを吸っちゃう姿に大人っぽさを感じたし、お酒を飲んで酔っちゃった顔に無邪気さを覚えた。

茶髪やピアス、校則違反しちゃっても先生に動じない勇ましさにトキめいたし、

唐突にキレちゃう少年らしさにキュンとなった。


また彼氏持ちの話によると、無免許でも上手に運転しちゃう横顔にドキりとなるらしいし、

暴力を奮っちゃう強さに男らしさを知るらしいし、遊び人でもモテちゃう証拠だから自慢できるらしいし、

だから結衣もカッコイイ人と純愛をと、大人なら否定する迷惑行為武勇伝はイケメン演出アイテムだった。


しかし、痛さをドヤ顔で披露しちゃう人をフューチャーしちゃってたのは、二ヶ月間だけで、

姉の小言により理想は崩壊した訳だ。

上記に当て嵌まる未成年が恋愛対象なのはお子様だと鼻で笑われた上に、情けないと呆れられ、

時間割の社会とは違う社会との付き合い方をゆるく知ると責任を感じた。

そう、女子がワルを持て囃すせいで、

もしかしたら男子は乙女の夢を叶えてあげようと気を遣い、

わざとダサく振る舞ってくれているのかもしれない。

多少は中学より成長しただろうか。


近藤がタバコもお酒もノータッチであるよう祈るのは女子高生の結衣が、

彼が校則違反をしている点に触れないのが恋は盲目の鉄則だ。


クラシックの曲が徐々に離れてすぐ、付け足したシンバルの効果音が一回鳴り、清掃時間終了の合図となる。

さて、懐古中の結衣ならサボると思われるだろうが、それは誤解だ。

小学校で教わった通り、教室の隅からきちんとコの字で後ろまで掃くし、ふざける人に注意もする。

見栄っ張りなのか根は真面目なのか、どちらなのかは不明だが、掃除に手を抜かない性格なのは確かだ。


けれど、残念なことに今は片思い中で、

持ち場は教室だったが、靴箱班とトレードして玄関ホールに居た。

そんな我が儘を発揮してもクレームがないのは、彼女が教室で好かれる存在のためだ。