揺らぐ幻影


だから――……

「好きな人できたら教えてよ、とか。乙女」

「ベタに恋バナしよ、定番長電話」


友人らが話の流れを無視して、突然こんな発言をしようとも、

結衣は違和感に気付くはずがなく、夜な夜な語りますと冗談交えて相槌を打つだけだった。

普通の女子ならば、二人が明らかに近藤洋平について仄めかしていることが分かるはずなのだけれど、

結衣はそうはいかない。

彼女の悩みは違うことで、アハハと音にした笑顔を剥いだ内側は、後ろめたさで一杯だった。


そう、好きな人はいる。

けれど告白する勇気などないと言うのに、友人に打ち明けてどうなるのだろうか。

無意味でしかないはずだ。


また、大好きな二人に片思い報告書を提出できない理由はそれだけではない。

近藤が好きだと言えない理由、それは……


中学でよく見聞きして来た。

『私○○が好きなんだ、絶対秘密だよ』――そう言ったが最後。

あっという間に広まる。
女とは口が軽い生き物で、他人のゴシップが大好物だ。

秘密だと前置きした話こそ一番に破られるなんて、

信用して打ち明けたのにそんな風に言い触らされたら立ち直れないし、

もし自分が近藤洋平を好きだと見ず知らずの人にまで噂をされるなら、

恥ずかしくて学校に行きたくなくなる。


一概に結衣は決して里緒菜と愛美を信用してない訳ではない。
平成ゆとりらしく述べるならば自慢の親友だ。


――しかしながら、それとこれとは話が別で、躊躇する。

女子高生と言えば恋愛観を討論し、恋愛相談をして親睦を深める性質がある。

楽しいと思う。
近藤洋平が好きだと告げ、もし付き合ったらどうするかと妄想を語る。

愛美と里緒菜、もっともっと楽しくなると分かっているのに――


どろどろ粘ついて後味の悪い黒色……これも恐らく恋愛ビギナーが陥る片思いの渋味であるが、

案の定、結衣は原因をきちんと把握していやしない。

かかりつけの恋愛病院もないので、処方箋は貰えない。

体の中にうごめく未確認物質が、非情な女の子にさせているような気がする。

お腹が空いていたはずなのに、胃は変な感情でいっぱいになってしまっていた。