揺らぐ幻影


季節外れな金木犀の香りの相乗効果か、アロマオイルが気分を高潮させる。

芳しさに色があるなら橙と黄の中間だ。


一、本当に深い意味がない。
二、寄り道した意味がある。
三、意味あり気にして欺いている。

三つの内、どれが近藤の深層心理に近いのだろうか。

ベッドに正座をし携帯電話を両手で掴み、国語のテスト問題・登場人物の心理についての考察ばりに、

結衣はあれこれ分析を始めた。

三つ目みたいに意地悪な歪んだ性格ではないだろうし、

二つ目みたいに含みを計算するまで好意を持たれていないだろうし、

消去法で一つ目に違いない。


やはり一つ目の案が有力だ。
彼からすれば、単純に彼女に姉というイメージがあっただけで、

幼児をあやすのが上手そうに見えただけで、子供に好かれていそうに思えただけで、

何も深い意味はないのだろう。


雨の日に停留所でバスを待っている際、車に泥水を撥ねられたとして、

前の人に『最悪ですね』と、声をかけるくらい近藤のメールは形式に沿った常套なだけで、

期待するような込み入った事情などないのだ。


けれど、舞い上がった恋心は勝手に背景を探ろうとするらしく、

苦手な女には勘違いされると困るので、褒め言葉は吐かないだろうから、

嫌われてはいないはずだといった感じで、向こうの気持ちはお構いなしに、

一義を作り出し答案用紙に文字を連ねてしまう。


結衣は恋愛初心者故に、近藤が自分にイメージを膨らませてくれていただけでも光栄でしかない。


《仲良し? 何歳? 可愛い? 長女じゃなく図々しい妹だから》

勝手な拡大解釈だから今度は褒めたつもりがないはずだけれど、

仮にも好感触な発言にどう反応したらいいのか分からなくて、

結衣は少々ガサツに返してしまった。


アピールをしたいなら、好きな人へのメールには、

『ぁりがとぅ』とか『子供は好き』とか、砂糖菓子のような主張をして可憐に振る舞えばいいものを、

ついB級グルメのように見た目よりも量といった雄々しさを出してしまう。


図々しいではなく仲良しだと打てばいいものを、なぜか言えない。

それが照れ隠し、要するに純粋さだという事実に、結衣は気付けないでいた。