揺らぐ幻影


《逆に勝った笑。ある意味って下手なんじゃん? 適当で私ストライクなるとか才能》

《マイボール持参しろ笑。計算して左手で投げたり、女子投げしたり、後ろ向いて投げたりするんやめて次回から適当に投げます》


数分置きにメールを送り合う。
こんな内容はつまらないと言われたらそれまでだし、実際つまらない。

それでも低レベルなやりとりが成立する関係は有意義だ。


人生論や恋愛観のアツイ語りを展開させるよりも、

ギャグセンスを疑われる笑いどころのない談話を繰り広げる方が、

結衣にとっては最高に楽しい。

どうか受信者もそうであってほしい。


変わらないこだわりは、やはり携帯電話で別人にはなりたくないという点だ。

顔が見れないからなんとでも演じられるけれど、それは少し現代病のような部分がある。


先日体育館で進学コースのみの弁論大会が行われた。

テーマはブログで、メリットを挙げる者の中、とある男子生徒の主張は異端であった。

彼の見解はこうだ。
ブログは他者に見せたい部分、こう思われたい部分だけを自分が選んで発信できるので、

気をつけないと自己に酔いすぎると苦言を放っていた。


最近は対面した人物との距離感を掴めない者が多いという嘆きは、

一理あると思った。深いと思った。

けれども結衣は物事を深く考えないため、

残念なことに翌日にはすっかり忘れ恋愛一色だった。


好きな人を想うと心が満たされる――心とは何か、それが結衣の今のテーマだ。

左胸、脳みそ、心はどこにあるのだろう。

人を好きになると、身体のどこかに恋心という新しいスペースができて、

見えない不確かなものに笑ったり泣いたり振り回される。

きっとずっと未解決なテーマだ。


《頑張る方向間違えてますから笑。近藤くん面白い》

《何事も努力って結論な笑 おもんないって弟に批判されてる》

明日には忘れるような言葉に隠された意味を拾い集める。

大事に一つ一つを心にとっておき、眠る前に取り出して、ふわふわした髪の彼を想うのだ。


幸せのメモリーチップがあればいい。そうしたら、瞬間瞬間の気持ちを保存できるのに。

もしかしたら既に空き容量がないのかもしれないけれど。