ひょんなことをきっかけに、例えば壁に飾っている造花に香りが芽生えることはあるのだろうか。
本物になれない偽物は、枯れないし手入れも要らないし、ほっとけば綺麗なまま、
時間が経っても何も変わらず、そのままだ。
もしも正真正銘の彼女になれたとして、
時計が刻む一秒に値段を設けるなら、結衣は何円の価値を見出だすのか。
メール慣れた?
前とか愛美にいちいち電話してさ
秒針に悪戯をして片思い歴を振り返ると、日に日に潔くなっているのかもしれない。
頭を捻り知恵を絞り、近藤とのない接点を瞬く間に築き上げるのだ。
もちろん耐震擬装はタブーで、触れられても芯がぶれない程度の微笑ましい捏造に限るのだけれど。
恋の到着を知らせる歌が携帯電話から生まれた。
《音痴だしあんま行かない、点数は素人だから関係ない笑。田上さんは? カラオケより昭和なボーリング派》
音痴? かわいいかも
てか音痴って言ってなんだかんだ絶対上手いし
歌声を聞いたことはないが、普段の声は低くて甘いため、
彼はゆったりとしたバラードが似合うと決め付けた。
裏声を綺麗に奏でそう。
芸術肌の人はロマンチストな気がした。
ほら、本人が音痴だと自己申告した一文にはもう触れやしない妄想が恋愛の醍醐味だ。
自分は十四点出したことがあることと、ボーリングはガーターとストライクどっちかばっかりでつまらないと同意を求めることの文章を打った。
ガールズトークの手始めに、カラオケでよくあるネタ。
友人歴が長いと許容範囲内なのだが、ほぼ初対面の場合、
あまり知られていないアルバム曲やカップリング曲をセレクトされると非常に気まずいという小話。
せめてトップテンに入るベタな方向が妥当、そんな価値観。
マイナーなアーティストばかりで攻められると対応に困る結衣は、まだ子供なのだろう。
《十四て笑。勝った、俺二十六。ボーリングある意味得意。てか極端、それって力任せに投げてる? 破壊王》
メールのテンションが安定していない人はやっぱり苦手なので、
近藤は絵文字が少ないから好きだ。
ほら、またくだらない点を評価して、また彼を好きになる。



