揺らぐ幻影




夜の雲は束縛しぃだから月を独り占めしたくて、綺麗な主役を隠している。


疲れたら筋肉が重たくなるのだろうかと、結衣は考えていた。

今日はアルバイト先に男子大学生の集団客が居て、

わざとピンポンを一人一回ずつ押して世間話をされたから、

愛想笑いは最後引き攣っていたかもしれない。


悪ノリに付き合うことに慣れているもんだと思っていたが、

さすがに二十三人、成人男性のお子様具合には呆れてしまった。

約三時間、彼らのお喋りに巻き込まれたせいで怠い身体にカツを入れ、少女はメールを打っていた。


ベッドに俯せで寝転がり、ふくらはぎが細くなる気がするため、膝から下を天井に向けて動かしてみる。

ダイエットが面倒な時、上手く切り抜ける魔法がある。

それは『昔より体重三キロ太ってて今ダイエット中なんだ』という呪文だ。

唱えることで、相手はこの人は本当はもう少し細くて、今は仮の姿なのかと、

すんなり三キロ痩せた自分を受け入れてくれるのだ。

そんな訳で、最近の結衣はいつもベストよりややオーバー気味らしい。


《一時間目間に合った? もう高校生なんだから明日は寝過ごさないようしっかりして下さい笑》

《奇しくも間に合わず。校長ばりの説教が始まりました。そっちも人の事言えない癖に偉人ぶるなって笑》

  語彙? 言葉並べるセンスあるよね

  面白いもん

引き合いに大塚を出すなら、同じメールで差出人が彼の場合、

結衣はクスリともしない訳で、その非情さが片思いの事実だ。


クラスメートが話していたモテメール内容のマニュアルを右から左になぞっていくことにした。

それは演出。
嘘をでっちあげることも必要だと愛美が言っていたし、

現に嘘も方便だと世間ではよく言うではないか。だから罪はないはずだ。


近々カラオケに行く予定なんてないけれど、

《今度カラオケ行く。近藤くん何の曲歌う?》と、澄まして送れる女子の強さ。

なかなか逞しくなったと思う。初メールに比べて進歩したと思う。


ここ最近、何を言えばどう返すのか、少し予想しながら行動できる自信が増え、

近藤の形に馴染んできたような気がした。