少女が少し見上げれば少年が居て、互いの視線は交差する。
神様からのご褒美な気がしてならない。
こんな場面は、ヒロインがピンチな時に高確率でタイミング良くヒーローが守ってくれるくらい信じられなかった。
それくらい狙っても結衣にはなかなか訪れなかった三流の奇跡だ。
体育祭に雨が降ればいいといくら願っても無駄だったし、
セール初日に売り切れないよう祈ったショートパンツは完売していたし、
神頼みして結果が得られたことなんてなかった人生のはずが今、パターンを覆した。
恥ずかしくてウサギのお財布をモジモジといじれば、変形する表情の喜怒哀楽は何?
「仮眠のはずが永遠の眠りについてたらしくさー、三駅先、とんだ小旅行」
笑いながら話す近藤は単語選びにユーモアが溢れており、
恋は盲目だから過大評価されているものの、
きっと彼となら愛美や里緒菜のように例えば『猫が寝込んだ』というフレーズにも、
十二分に爆笑できるのだろう。
好きになって良かったと、片思いを立証する理由が一つ増える。
「可哀相、同情する、世界一不幸!」
もしかしたら、ごくごく自然にお喋りをするなんて、初めてかもしれない。
今までは作戦ありきの人工のみの接点ばかりで、天然な出会いなんてなかった。
ウサギを解放して空になった手、今度はスカートの裾を引っ張ったり広げたりして、結衣は近藤を見上げた。
やはり気のせいではなく 、愛しい人と目が合う。
自分も二度寝してと、スムーズに会話のキャッチボールを予定したはずが、
「田上は早く教室行け」と、見事にボールを先生に横取りされてしまった。
めっちゃ邪魔
怒りの矛先を再びゆとり代表として先生に向けかけた時、
「早く行きな一時間目まで遅れる。じゃあ」と、近藤が廊下を指差す。
名残惜しいが黙って手を振った。
いつもは見送るはずが今日は見送られる側という些細な違いが嬉しい。
何でもないことを嬉しがる大袈裟な幸せは贅沢な幸せだ。
朝の会で担任が出払った職員室は静かで、
少年少女の会話は本人たちが思っているより遥か鮮明に聞き取られていた。
噂の発信元はいつも自分――それは教室の悲劇だ。



