揺らぐ幻影



「っわ、」

出入口の前に立った瞬間、自動ドアみたいに開いて入室者とぶつかりそうになり、

反射的に少女は悲鳴を上げた。


何か善を働いただろうか。
いいや募金なんかしていないし、ゴミを拾ってもいないし、

自分の為にしか生きてきていやしない。

ならば何が味方したというのか。


「、うわ?! ビビる、ごめっ大丈――と、あ、なんだ田上さん?」

「ウチこそごめ、――え?…、?え、――あ!…………わ、!」


そこに居たのは、少し白い肌で、中心に寄った目が可愛い煉瓦色のふわふわな髪をした少年だった。


「え、ぽ……じゃな、近藤く……、おは、よ?」


予期せぬ人物の登場に、なかなかないくらい挙動不審になるも結衣は挨拶をした。

あっという間にハイモードとなった心臓は、恋細胞が血となり身体を巡る。


彼からの「おはよう」を小細工なしに貰えて、棚から牡丹餅ならぬドアから好きな人だ。

強運の持ち主なのだろうか。
あるいは人生の運を収集し、今この場所で使い果たそうとしているのだろうか。


全く見当が付かない。
なぜなら、甘いハプニングなんて日常生活にはありえないのだ。

だから何故?
結衣は意味が分からなかった。


何にせよ、偶然近藤に出会えるなんて運命で、それはそれはチープな詞藻だ。

今の結衣なら、赤玉一個と白玉二十個が入った箱から、

赤玉を取ると宣言して、たった一つの価値を取り出せる気がした。

大嫌いな数学も近藤が絡めば楽しいのかもしれない、そんなことを悠長に思った。


「あ、と、遅刻? うへへ」

なにか話しかけようと突発的に口にしたのは、遅刻した人に遅刻と尋ねる愚図なアクションだった。


  うわ最悪、うへへって何笑いよ

  変質者みたいじゃん

だらしない笑い方が情けなくて、心の中で自分に突っ込む。

恋愛に慣れた小悪魔ならば、恐らくエヘヘとかウフフだとか、キャハハと小首を傾げてはにかむだろうに、

まだまだ女スキルが足りないと痛感する。


先生やお客に愛想を振り撒くことは可能なのに、どうして好きな人になると上手くいかないのか。

やっぱり今日は女子高生レベルだと、世界で一番最悪な日なのかもしれない。