揺らぐ幻影


机に落ちたレタスは机のお掃除をしてしまったので、

三秒ルールに従えなかったらしく、気の毒だが廃棄されることになった。


「結衣ちゃん、おばかちゃん」

なるべく和やかになるよう変なイントネーションで里緒菜は笑って言ったのだけれど、

納得できない結衣はホッペを空気で膨らませ、不信感を露わにした。

男子高生、彼ら三人とも同い年なのだから差はないだろう。
それが恋愛研修生の主張だ。


無知を嘆く子供を宥めるように、「市井はモテ過ぎだしー完璧王子様すぎるしー」と、市井雅についての説明が始まった。

それは吹き替えでもないし字幕でもないのに、強制的に洋画を見せられているような気分だった。

要するに、さっぱり意味不明で主旨が汲み取れやしなかった結衣が憶測で話をまとめると、

里緒菜と愛美的に市井雅のようなタイプは惚れたら負けということらしい。


「ふうん、?」

  なんで?

  頭良いし性格良いし運動できるし賞も取るし特待生だし!

  それにカッコイイのに硬派だし!

  分かんない、謎


ありえないが、仮に市井雅が結衣の交際相手なら自分は絶対幸せだと思う。

彼はひどく一生懸命自分に優しくしてくれると思う。


従って結衣には二人の見解に共感できなくて、不満を表明する為、露骨に唇を尖らせた。

まるで近藤洋平を悪く言われたような気分だったからだ。

これもまた、大変片思いらしいなんとも微笑ましい感性である。


好きな人の友人をこれ以上悪く言われたくないので、

ここは出番だとばかりに、結衣はフォローがてら口を開いた。


「近藤は分かるよ、ちゃらちゃらしてないし誠実だし、かっこいいのに自慢しないし優しそうだしーオシャレだし……それから、」

市井雅をプッシュするはずが、近藤洋平をフューチャーするお喋り――特定の人について饒舌に語ることが何を意味するかなど、

恋愛無頓着な少女は知らない。

無自覚に“私好きな人が居ます”と、大々的に告知していることを知らない。

“絶賛恋愛中です”と、自ら宣伝していることを。
“片思いキャラ”の売り込みをしていることを。

――なぜなら彼女はお察しの通り初恋の最中故に注意が足りないのだ。