揺らぐ幻影


遅刻が確定したので、ゆっくりと渡り廊下を徘徊し職員室へ向かった。

結衣が無遅刻だった理由は、ただ一つだ。


「入室書ください」

「おー、田上ー目の周りが黒いぞ?」

職員室に入れば、このように身嗜みのチェックを細々されてしまい、

タイミングが悪いとくどいお説教が始まり、なかなか解放されない上、

頭髪検査の表までを取り出され、備考欄に書き込まれてしまい次の検査で不利になってしまうからだ。


  あーあ、お化粧落とされるかも

  ついてない、最悪

  本当嫌な日


「化粧濃いなー田上、アートか」

自分が悪いのに、「魔法にかけられてるんです」と、ふて腐れ結衣は適当に返す。

公共の場で騒いで注意されたならむくれる感じ、非は自分にしかないのに不機嫌になる感じ。

言うならば、お子様という単語が似合う態度の悪さと精神の未熟さである。


視界に入った壁は貼紙だらけで、むしろ壁紙がプリントなのではと誤解するくらいで、

なぜごちゃごちゃして平気でいられるのだろうかと、

疑問を抱く何様目線具合が女子高生らしさだ。


休み時間以外の職員室は病院の待合室に似ていて、必要最低限の会話しかない。

そのせいで、話を聞き付けた暇人の学年主任が結衣の服装をチェックしに来たのだが、

ラッキーなことに来客があり、一難去った。


クレンジングオイルとシートのどちらにするかと嬉しそうに提案されてしまった。

  あーあ

お化粧を落としたくないのにと、忌ま忌ましいそれらを睨みたい結衣はプンと鼻を曲げて、部屋を見渡した。


性格が机周りにあらわれている。

チョークの色を不必要にいちいち使い分ける先生は、

ファイルにしっかりと手製のラベルが貼ってあり、こだわりが強いのがよく分かる。


文字のバランスが気に入らないとやたら修正し、黒板を丁寧に使う先生は、

机の上に何も置いていなくて、神経質さが滲み出ている。


読めないような象形文字で堂々と授業をしている先生は、

茶渋の残ったコーヒーカップを置きっぱなしで、書類が雪崩を起こしており、がさつそのものだ。


そして目の前に居る先生の机――興味はないがここまでくれば説明しよう。