揺らぐ幻影

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修正ペンを二十二秒出したくらいの変な形をした雲が浮かんでいる。


四歳の子供が空を描く時に選ぶ色をした天の下、学生服姿は見当たらず、

出社が十時、私服出勤らしき人々がちらほらと居るくらいだ。

というのも授業も仕事もほぼ九時を目安に始まるため、

七時半から八時半が通学通勤のピークで、最低五分前行動が当然の社会、

既に三分をきった今、道に人気がない訳だ。


  眠いー

昨日の天気の忘れ物、水溜まりが道路の上に落ちている。

雨の塊の中心、無遠慮にしぶきをあげて通り去ったのは、

年甲斐なく自転車を立ち漕ぎする一人の少女だ。


スカートの下にジャージを履くのは宜しくないとされるが、

サービス精神旺盛過ぎるのも問題なので、急いで自転車に乗る際はマストアイテムだろう。


  寝過ぎた寝過ぎ最悪だ

  遅刻しちゃうし

  ギリ間に合うかな

うっかり二度寝をしてしまった結衣は、すこぶる力でペダルを回していた。

もちろん、中学の時のジャージを履いている。


校門を閉める用務員さんのマイペースな挨拶を適当に交わし、自転車置場へ一直線。

息が切れて舌も乾き、最大限に急いだ証拠のコンディションにもかかわらず、

無情にも朝の会を知らせる音が聞こえた。


こうなると遅刻は遅刻。

  もうー、最悪

  じゃあゆっくり出来たのに

せっかく朝ご飯も食べずに頑張ったのに結局遅刻になるのなら、

のんびりと支度をしたのにと結衣は舌打ちをした。


電車通の人の場合、走った時はぎりぎり三メートル間に合わなくて電車を乗り逃し、

逆に無理だと諦めて歩いた時には、少し駆け足していたら十分乗れた距離で発車する、――みたいなやるせない感じだ。


エネルギーの無駄使いでしかない。

全力で遅刻をするなんて、この体力の消耗をどうしてくれるのか。

ホッペを膨らませた結衣はゆっくりと自転車に鍵をかけると、だらだらと歩みを進めた。


  、嫌な日

  二時間目からにすれば良かったし

いっそ一時間目は病院に行ったと偽りサボりたくなる性分だ。