揺らぐ幻影


友人と呼んでもいいのではないかという心の変化。

一週間前の自分には言えなかった友達という言葉。


これは大事な物語だ。
世界に残る名作ではないけれど、結衣にとっては大切な小話だ。

――表紙からゆっくりめくれば簡単。

渡り廊下のあの日、目が合っただけで幸せだった。

辞書を借りたあの日、会話なんて続かなかった。

挨拶をしたあの日、それ以上はなかった。

栞なんていらない。


いつから言葉が生まれた?
いつから話しかけることが当たり前になった?
いつから笑ってくれるようになった?

参勤交代が何年前か記憶にないし、大正デモクラシーが何だったか覚えてないし、

正倉院が何造りだったか忘れてしまった。

そう、結衣は物覚えが良い方とは呼べない。


そのため、いつ何がどう変わったかなんて知らない。
すべてが積み重なって今がある。

好きで、好きだから頑張る。


「うん、フレンドパーク」

愛美は言った。

「普通に親しい女子だと思う」

里緒菜は言った。

首からぶら下がるウサギ。寂しがり屋さんのウサギ。
いつもいつも三人で居るから頑張れた。一人なら今はなかった。


「ありがと、ほんと二人のお陰、頑張るから助けてね、スガリスガリ君」

こんな時でも真面目に感謝できないのは、小芝居臭くて嘘臭いからだ。


結衣、愛美、里緒菜、友情には興味皆無でとっても夢がない女の子。

シャボン玉も虹の端も触りたいとは思わない。
遠くから眺めるから綺麗で、幻のようなものだ。

そんな三人。
この先、変わらず同じ時間を相変わらず過ごすのだろう。

『あなたの青春はいつですか?』と、尋ねられたら、

以前の結衣は高校一年生と断言するつもりだった。

しかし今は違う。

高校一年生を過ごした仲間と大人になっても一緒に居るなら、

迷うことなく『毎日が青春です』と答えるのだろう。

ずっとずっと愛美と里緒菜と仲良しな限り続いていくのだろう。


そんな青臭いことを考えるなんて、こんなキャラではないのに、恋をすると知らない自分に変わっていく。

それを人は成長と呼ぶのだろうか。

静かに泣いている空を見上げる必要はなかった。


…‥