揺らぐ幻影


好きな人が去ったなら、意味がないため、もうシャボン玉は吹かない。

なんて逞しいのか、これも恋の力の一部なのだろう。

ぷくぷく浮かぶのは残った魔法で、灰色の世界を背景に時折きらりと虹を見せる。


触ると弾けて消えてしまう儚い泡。

指先で撫でるようにしても一瞬でなくなってしまう脆さ。

ぷくぷくふわふわ。
人魚姫は叶わぬ想いに永遠を誓い泡となった。

美しいからこそ決して手を伸ばしてはいけないシャボン玉。

彼への恋心は、どうか消えてなくならないで。
祈るなら、いつまでも浮かんでいて。


  ぷかぷか

彼になら壊されても構わない――そんな刹那限りの恋はごめんだ。

大事な気持ちは、受けとってほしい。ちゃんと受け入れてほしい。

一方的に想いをぶつけ、一時のために夢を自ら壊したくはない。


現代版人魚姫が居るなら、彼女はどんな行動に出るのだろうか。

今のご時世、女性は強い。
もしかしたらあっという間に王子様の唇を奪っているかもしれない。

泡になる必要はなくなるけれど、あのライバル女がやはり上手で、

結局は王子様が自分を好きになってくれることはないのかもしれない。

結末を読み手で変えられるなら、結衣は彼女にどんな一行を与えるのだろう。


「ねえー、私」

天井に届いて行方不明になる虹色を眺め、結衣は丁寧に口を開いた。

ジュレのような輝きを秘めた唇はぎこちない。


こういう時の空気を読む友人は流石で、相槌を打たずとも雰囲気で先を促してくれる。

つとんとしたシャボン玉は繊細で、初恋を育てる乙女心そのものだ。

ちょっとか弱い癖に、意外と高く飛んだりする。


「友達になれた、……多分、友達」

近藤洋平と田上結衣。
共通点は同じ学校、同じ学年、必要最低限しかない。


実のところ、偶然奇遇作戦の境界線はひどく曖昧だ。

知り合いか顔見知りか、友人がメル友か、どれも定義ははっきりしておらず、

段階に線を引くなんて不可能な話なのだ。

今日から友達になりましょう』なんて宣言をしないし、

『あなたは友達ではありません』なんて公言もしない。

なんとなく、だ。
それが一方通行なのか、双方向なのか、誰も説明できない。