授業をサボって偶然ポッケにあったシャボン玉で遊んでいたら、
奇遇にも近藤に出会ってしまった。
外出が億劫な濁った空色の下は、とりわけ白いセーターが映える一日だ。
首からぶら下げたお財布のウサギだって、気持ち笑ってくれたような好都合な錯覚に陥るのが、
健康な恋の病だ。
「うっわ、何してんだよウケる、やばいな」
ピンボールが跳ねたみたいな抑揚は少年らしく、今までで一番テンションが高い話し方に、
結衣の顔はみるみる真っ赤になってしまう。
「えっと、ちょっと癒されたくて、あはは」
恥ずかしくてチェック柄のスカートをグーで握る。
「これ原液さ、俺ん友達、小三時に飲んだことあるから」
始まる会話に不安が吹き飛んだ。
「え、苦くない? 毒殺」「はは、病院行かずに牛乳飲んでた」
「えー牛乳万能説? 絶対の信頼? はは」
「殺菌能力、牛乳は裏切らない、あはは」
緩やかに進む言葉の一音一音が愛しくて、ボイスレコーダーに保存したい。
皮膚の内側を痺らせる音をしていて、脳みそを甘くおかしくさせる。
耳に馴染む声が首の裏をふにゃふにゃにとろけさせてしまう。
ぷかぷか浮かぶ透明の球体は愛美が作った小さな虹だ。
結婚式の教会から出た瞬間、皆が一斉にシャボン玉シャワーをしてくれた絶景みたいで、
心が飛んでいきそうだ。
「田上さん変わってるな」
さすがに学校でする遊びではないと続ける。
顔の中心に皺を作るクシャっとした笑い方が無垢な子供のようで、
携帯電話でなんでもかんでも写メしまくるタイプではないのだけれど、
シャッターチャンスは今この瞬間だと結衣は確信した。
シャボン玉は掴みがOKだったようで、里緒菜にいけると小声で褒めてもらえた。
肩を揺らし笑う近藤、顔の下半分を覆った右手の――指の節にある角張った部分に触れてみたい。
寒さに甘え、懐に擦り寄ってみたい。
どのくらいの体温をしていて、どのくらいのきつさで抱きしめてくれるのだろうか。
同じクラスなら、例えば体育祭でハイタッチが出来るのにと、結衣はよこしまなことを思ってしまった。
とにかく今の微妙な関係や二人の環境に舌打ちをするのが、片思い組の常だ。



