揺らぐ幻影

――――――
――――


頭の上を斜めに零れる雫は、

美しい人の泣き方のように、控えめで儚くも美しい印象を受ける。

マスカラを落とした時の泡のような雨雲が空を独占して景色の彩度を落とすので、

今日のように傘が必要な日は薄暗く、無性に心細い気持ちになる。


冷えて寒いから人肌が恋しいのか、

灰色の世界が淋しいから誰か傍に居てほしいのか。


  会いたい

太陽が隠れていると皆外出を控えるため、人の気配がない。


――というのはとんだ演出。
ただの気のせいで、単純に今は授業中で人が見当たらないだけである。


「雨しつこー」
「リアルに長靴許可してほしい」
「レインブーツって言いなよ」

「ミソスープ」
「エダマメビーンズ」
「かぶれ?」

「味噌汁、サムライ」
「枝豆、ニンジャ」
「……。」

勉学に励まない結衣たち三人は靴箱前のベンチに座り、

会話の引き出しも少なく、それぞれが惚けていた。


  まだかな

偶然奇遇作戦はいつも本気で生半可ではなく、全身全霊で取り組んでいる。

何度も言うが、その気合いを勉強に向ければきっと結衣は成績アップ間違いないだろうに。


しとしと雨は止まない。なにより冬の雨は女子高生語録だと切ない。

水溜まりを避けたり、傘がぶつからないよう気にしたり、歩くスピードが遅くなる。


また、道が混雑していたり、バスや電車の利用者が増え乗り遅れたりと、

雨が降ると目的地にたどり着くには時間がかかってしまう。

今朝はE組に遅刻者が何人か居た。

もしかすると、時にはゆっくりと歩みを進めなさいと言う恋の神様からのお告げなのだろうか。


それでも自転車は立ち漕ぎをしたいし、電車は一本早いのに乗りたいし、

渋滞していたら抜け道を使いたくなる。

何より好きな人が目の前にいるなら、走って追いかけたくなる。

足踏みをしている間に誰か他の子が現れそうだから怖い。


マドカ高校の花形である服飾コース用に、運動場の奥には離れ校舎が特別に建てられており、

定番の被服室を始め、各学年で特別優秀な生徒三人ずつ使用できるアトリエ室、

一般的な服屋の店舗を真似たシュミレーション室がある。