揺らぐ幻影


世間に定着したキャンドルナイトやハロウィンという行事の一環か、

逆チョコやサマーバレンタインなるものがあるらしいけれど、

やはりバレンタインは寒い中、女の子が好きな男の子に告白することが一番ベストだと結衣は勝手に定義している。


一年で一番淡くてキラキラしたイベント。

そんな素敵な日なのに、片思いの入口を商業的でないにしろ、広げてほしくはない気持ちが強い。

異文化や新しいことを取り入れないのはよろしくないかもしれないし、

現にバレンタイン自体が馴染んで普通になっている矛盾もあるが、

二月十四日の風格をカジュアルダウンさせないでほしいという気持ちが濃い。


片思い、告白、チョコ。

どうせなら一年に一度きり、難易度は高い方が頑張りがいがあるではないか。


大好きな近藤に近付ける最適な好機を無駄にしたくはない。

「私は水色、愛美はピンク、決定事項、変更は認めず」

結衣は友人に対して自己中心的な発言をしてから、

わざとらしく涙袋を膨らませお上品かつ小生意気に微笑んだ。

すると、「えー山瀬のここ空いてますよと? それとも誕生日に写真撮れと?」なんて、

ピンクになぞった在り来りな冗談を愛美は口にしつつ、

下唇を裏返して眉頭を持ち上げ、変な顔を作ってみせた。

ウケを外した時はとりあえず顔面で修正、それが女子高生の伝統だ。


嫌だと言う彼女に、バレンタインカラーはピンクが定番、

自分のポジションでは無理だからと説得する結衣は、

どさくさに紛れて手元にあったベビーピンクのリボンを押し付けてやった。


ピンク色は可愛いため小物に取り入れるが、恋愛となれば話は別。

いかにも『本命です』の先入観が強く、とてもじゃないがラブリーカラーなリボンを巻く勇気はない。

それに十四日にばりばり本命色の紙袋を提げることになる近藤だって、

明らかにバレンタイン過ぎて恥ずかしいだろう。


そのような理由から、乙女の憧れピンクちゃんは愛美に托したかった。

自分は来年ハートだらけなラッピングをしてプレゼントすると目標も出来たし、悔いはない。


今年実現できない憧れは、来年への希望となる。

そうやって頑張る理由を見つけていけば毎日が楽しい。