揺らぐ幻影


電子レンジが放つ濃厚な香りを推測すると、

チョコレート味のドーナツをチョコレートでコーティングして、チョコレートチップを塗したものと、

ホットチョコレートを飲みながら食べた状況だ。


「うちら自称菓子職人」

「自称素敵奥様になろ」

焼き上がったケーキは二人の声色も弾んでいることからも完璧で、

調度いい焼き加減と表面の艶は、自称家庭的だと調子よく豪語する出来栄えだ。


冷ましてから味見をするので、その間にラッピング用品を買いに行くことにした。

暖かい家を出て外を歩けば、頭の下の辺りが痛くなり、

頭痛が痛いと言いたくなる結衣だ。

ちなみに鈍いそれは、なんでも寒暖の差に血管がびっくりするせいで、偏頭痛のように感じるらしい。


サンプルで貰ったままのなかなか使う時がない奇抜なオレンジのアイシャドーに似た色彩の太陽と、

ヘアムースを手にとったものが飛んでいるような雲、

今日の空模様は、おしゃまさんな六歳児に見えた。


「迷うー」

「数ありすぎー」

愛美の家の向かいにある地元の雑貨屋さんには、

リボンや紙袋、透明の袋や箱、様々な包装用品が溢れている。

それらはレシピ同様、ピンクとホワイトでお姫様な感じ、麻紐やアースカラーでナチュラル風、

紺とシルバーで無駄な装飾がないシックで大人らしいタイプ、ショッキングピンクにブラックのレースで小悪魔チックなもの、

といった具合に、ラッピングにも恋の数だけバリエーションが豊富なようだった。

その宝箱の中から好きな人に一番似合うものを選ぶ、なんて尊い行為なのだろうか。


  かわいー

  テンション上がる

バレンタインコーナーに居るお客は皆笑顔で、

ほかほかとした淡い気持ちを貰える男の人は、この上なく幸せ者になれるはずだから、

バレンタイン当日の男子は、そわそわして落ち着きがないのだと分かった。

もしかすると好きな子の恋心を受け取る日になるかもしれないのだ。

心臓を乱す彼に結衣もハートを渡したい。


国民に片思いを応援される唯一の日、頑張ることを祝福されている日に、

片思いの結衣は何を選べはいいのか。

着せ替え人形のお洋服を作る時ばりに、あれこれ悩んでしまう。