揺らぐ幻影


北欧スタイル、カーテン屋に勤める母親から多分聞いたフレーズが浮かんだ。

カラフルなインテリアが作り出す元気が出る空間は、

雑誌のお部屋公開に掲載されていてもおかしくはないし、

窓から入る光度を計算して、この家の主が材質を選んでいるようなセンスが素晴らしい。


「愛美いいな、バカップルめ」

「私はいいの。結衣どうすんの」

どうする、が指す言葉は何なのだろうか。

さっきまでのお遊戯めいた会話は女子高生レベルの真剣なそれに変わる。

告白をどうするのか、今の関係をどうするのか、といった含みだ。


「……。」

舌に残る甘い余韻を甘味料ゼロのコーヒーが消すかの如く、

結衣の表情は苦々しいものに変わった。


  ……。

メールアドレスさえ知れば友人になれる気がしていたけれど、

  地味に第三段階長いし

  チョコ イコール……告白、は厳しい


彼の関係は曖昧。
その現実をまだ知りたくない。
知っているけれど、知りたくない。
知らないうちは頑張れるから、気づかないフリをしたい。


「バレンタイン……、サユリさん」

待受画面を見るために携帯電話をパカパカ開いて閉じて、結衣は手悪さを続けた。

いつもポッケにある『ゆい ぽこりん 頑張れ』と落書きやハートのスタンプを押されたプリクラ画像は、片思いのお守りだ。

液晶画面を見る度に愛美と里緒菜が居ると思えば心強くて頑張れた。


例えば、近藤洋平のメモリー番号は七十一番目だけれど、それをゼロ番目にしたいし、

近藤洋平と登録している名前をハートの絵文字で囲いたいし、

高校のメールフォルダに彼を振り分けているが、本当は近藤洋平単独フォルダを作りたいし、

――つまり携帯電話を近藤洋平仕様にしたい。


それがまだ未遂なのは、可能性が低いと分かっているからだろう。

頑張りたいけれど、たまに逃げてみたくなるため、

「焼けたらラッピング買い行こ」とはぐらかすやいなや、

「うわ、ごまかしたヘタレ」と、鋭く突いて笑う愛美の足を蹴ったのは言うまでもない。


深く考えずに当たって砕ける、それもまた運命だ。

とりあえず困ったら、運命という単語を切り札にまとめればいい。